糖質制限には科学的根拠あり・・・米国糖尿病協会の見解 その1
2013/06/18
日本の糖尿病学会が破綻していることは既に触れた通り。先日発表された「熊本宣言2013 あなたとあなたの大切な人のために」をみると、いまだに患者さんに実行困難で、合併症を引き起こしかねないカロリー制限食を課しています。思うに、「あなたとあなたの大切な人のために」というのは患者さんのことではなく、責任回避を願う糖尿病医や栄養士その他利益関係者のことを指しているのでしょう。この宣言の問題点については江部康二医師が鋭く指摘しているので、そちらをご参照下さい。
日本糖尿病学会がなぜダメなのか。まず第一に、その取り組みに科学的根拠を著しく欠いていることが挙げられます。なぜか。米国の糖尿病協会(ADA American Diabetes Association)の勧告を例にとって考えてみましょう。まずその1でADA勧告の科学的根拠を簡単に示し、その2では勧告の内容、変遷と現状をみていくことにします。(以前、ADAを米国糖尿病学会と表記していましたが、日本でいうところの学会じゃないので米国糖尿病協会に変更))
・・・
米国糖尿病学会(以下、ADA)の基準勧告、Standards of Medical Care in Diabetes を説明するためには、まずADAがその論理的基盤を置いているEBMの話から始める必要があります。
現在、医療関係者はEvidence-based medicine (EBM; 科学的根拠に基づく医学)を進めています。なぜ、科学的根拠をわざわざ云々しなければならないかというと、奇妙で怪しく根拠に基づかない医療行為が世の中にたくさん蔓延っていることの裏返しです(注)。
そのEBMにはいろいろな定義があります。Wikipediaにはいつくか紹介されていますが、一般的には科学的根拠の確かさとリスクとの兼ね合いによって、A、B、C、D…と分類するのが通例です。
最強のAはRCT(ランダム化比較試験)などで確認された事実に基づくものを指し、もっとも科学的根拠のあるものです。次点のBはランダム化されていない調査やコホート研究等を扱ったもので、Aより少し信頼性が劣るもので、Cは便益はあるがリスクが拮抗しているもの、最後のDはリスクが便益より上回っている根拠があり、無症状の者には薦められないとされています。さらにUSPSTF(米国予防サービス専門委員会)では、レベルのIクラスを設け、根拠がないか貧弱でリスク便益が勘定できないものを別建てにしています。
さて、これから米国糖尿病学会(ADA)の勧告基準の中身に入っていきましょう。ADAでは毎年1月に機関誌のDiabete Care で、その年の糖尿病に対する医療基準を発表しています。
ADAの糖尿病勧告ではA、B、C、Eの4つの根拠水準がまず示され、勧告それぞれに科学的信頼性がどれくらいあるのかが明確にされています。細かい話を抜きにすると、ADAのA、B、Cは先に示したEBMのA、B、Cとほぼ同じもの。ただ、最後のEは専門家のコンセンサスあるいは臨床経験(Expert consensus or clinical experience)となっており、根拠がなくてもプロが云うんだからオッケイだ、という変なものが付属しています(怪しげなものを推奨してきた過去のマイナス遺産に対する逃げなのか)。
問題の糖質制限ですが、ADA勧告で登場したのは2008年のことでした。それ以前ではどうだったかというと、たとえば2007年勧告では以下のように記載されています。
Low-carbohydrate diets (restricting total carbohydrate to <130 g/day) are not recommended in the treatment of over- weight/obesity. The long-term effects of these diets are unknown, and although such diets produce short-term weight loss, maintenance of weight loss is similar to that from low-fat diets and the impact on CVD risk profile is uncertain. (B) (Executive Summary: Standards of Medical Care in Diabetes 2007 より)
私訳すると、「低炭水化物の食事(1日130g以下に制限)は肥満の治療として薦められません。その長期的影響はわかっておらず、短期的には体重減少になっても管理は低脂肪食によるものと同等、心臓血管系疾病への影響も不確かです。(B)」
末尾の(B)は科学的根拠がBランク、つまり明快な事実に基づく見解ではないが、最高ランクのAではない。でも、根拠の薄いCランク以下ではないという意味合いになっています。
ところが、2008年になるとこの記述が以下の通り、一新します。
In overweight and obese insulin- resistant individuals, modest weight loss has been shown to reduce insulin resistance. Thus, weight loss is recommended for all overweight or obese in- dividuals who have or are at risk for diabetes. (A)
For weight loss, either low-carbohy- drate or low-fat calorie-restricted diets may be effective in the short term (up to 1 year). (A) (Executive Summary: Standards of Medical Care in Diabetes 2008 より)
肥満がインスリンの抵抗性を高めるので糖尿病患者やモドキ人には体重減少が推奨される。そのためには低炭水化物食(糖質制限食)、低脂肪カロリー制限食が短期的に効果あり、とされたのです。要するに、「薦められない糖質制限食」が一転して「効果あり」に変わってしまい、おまけにその科学的根拠は最高レベルのA。いったい2007年から2008年に至る間に何があったのでしょうか。
理由はともかく、2008年以降米国糖尿病学会は糖質制限食(低炭水化物食)を公式に認めることになりました。この勧告について、より詳しく検討していくことにしましょう(次回へ)。
(注)
医療関係者の中には根拠なしの話を平気でする人物がいます。分野は変わりますが、3.11の原発事故の後に「ニコニコ笑っている人に放射能はきません」と解説した山下俊一(福島医科大)のような人物はその典型例で、科学的根拠のない話で被曝した人々の危険性を隠蔽してしまいました。こんな人物を政府のアドバイザーや大学副学長に任命する日本国が世界中から愚かな恥ずかしい国だと見なされていることに、私たちは知っておかねばなりません。