やっぱり危ない福島の学校プール こどもの健康を守る気がない文科省プール見解

.opinion 3.11

文部科学省は6月16日福島県教育委員会に対し、「プールを使用して問題ない」とする見解を伝えたとのこと。その試算結果には致命的な欠陥があり、またまた被曝を強制する指導となってしまいました。

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文科省は水泳の授業で児童が浴びる放射線量を試算しました。その仮定として、

1. 授業中30分間は1キロあたり10ベクレルの放射性物質が含まれる水中で活動
2. 15分間は空間放射線量が毎時1マイクロシーベルトのプールサイドにいる
3. プールの水を200ミリリットル誤って飲む

などの条件で15回授業をした場合、積算放射線量は6.1マイクロシーベルトになったという結果です。「1回の屋外プール活動を行った場合、児童の受ける線量は、合計0.00041mSv」と試算し(0.41マイクロシーベルト)、15回で0.0061mSv(6.1マイクロシーベルト)としています。

文科省の発表で問題ないかもしれない…、そう思った方、ちょっと待って下さい。ここには計算のトリックがあります。

だって、年間被爆量を計算する時には年あたりで20ミリシーベルト(mSv)とか1mSvを考えるのに、プールの使用時間は1回あたり45分。45分間と1年間では365x24x60÷45=11680倍の時間幅の違いがあります。45分間x15回分と1年間では778倍の違いです。

騙されないためには同じ時間幅で被曝の程度を比較してみましょう。とりあえず安全性を期待する1年あたり1mSv以下の被曝なら45分で0.086マイクロシーベルト以下です。しかし、45分のプール授業を受けると約5倍の0.41μSvになるわけです。このどこが問題なしで大丈夫なのでしょうか? これではプール授業は危険だから受けない方がいいということになりませんか?

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次に計算根拠になった仮定についてみてみます。まず1の「1キロあたり10ベクレル」というのは、水道水中の放射線量基準(WHOガイダンスレベル)のこと。ヨウ素131やセシウム137入りの水道水を1日2リットル飲んだとして、年間0.1mSvの被曝を受けるとする時の線量が10ベクレルというわけです。でも、日本の原子力安全委員会は、飲み水の暫定基準として1リットルあたりヨウ素131で300ベクレル、セシウム137で200ベクレルとし、水道当局は暫定基準値以下なら「問題なし」として配水しているのが現状です。この水道水がプール水の原料になるわけ(井戸水などの例外はとりあえず横におきます)。

この飲み水の指標が「ヨウ素131で300ベクレル、セシウム137で200ベクレル」なのに、文科省はプール水による被曝を計算する時にこれを使っていません。なぜでしょう。もうこんな高レベルの汚染は2度とないということでしょうか。でも、誰も先のことはわかりません。だったら、危険性を考慮し、現在の暫定基準を使うのが筋でしょう。仮にその暫定指標で計算すれば、児童が浴びる放射線量は数十倍になると試算されますから、要するに危険性を過小評価するために姑息に10ベクレルを計算に使ったというべきところです。

次に2ですが、文科省は校庭では毎時3.8マイクロシーベルトなんていう基準を出しており(年間20mSv被曝)、なぜプールサイドを低く設定しているのかは不明です。

どうやら文科省はプールにおける被曝を小さく見せるための計算作業を行い、それをもってプールは安全だと巧妙に安心感を植え付けようとしているようです。

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さらにプール水質について言えば、文科省の仮定では雨や降下物による被曝汚染を全く考慮していません。また、今後、東電福一原発が何らかのトラブルを起こし、大量の放射性物質を放出する可能性も考慮していません。異常な被曝を引き起こした3月12日~14日にかけての経緯を2ヶ月後に公表するような政府ですから、プール汚染もその二の舞にならないとも限りません。

飯舘村の水道水で検出された965ベクレル/キロまではいかなくても、数百ベクレルの水質汚染は想定すべきところで、それがプール内に蓄積され高レベルの汚染が継続することも考えなければなりません。また、原子力安全委員会が水道水の暫定基準を下げない限り、文科省の10ベクレル計算には何の保証もありません。もし万が一不幸な事態が起きたら、プール水による被曝どころか、水着一枚で大量の被曝を受ける危険性についても配慮すべきではないでしょうか。いずれにしても、文科省はこどもの被曝についての対応が酷すぎます。

 

(追記 6/29)
やっぱり危ない福島の学校プール なぜ非常時にわざわざ泳がせるのか を追加しました。