サブプライム問題とは何か

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サブプライム問題とは何か アメリカ帝国の終焉 (宝島社新書 254)
アメリカ帝国の終焉

(春山昇華 宝島新書 2007/11/24)

最近新聞やTVで喧しいサブプライム問題。昨年辺りからUSメディアで取り上げられ、今年の夏前には破綻する金融機関も続出。問題の内容をある程度理解している・・・と自分では思っていましたが、この本を読んで唖然。本当のところは何もわかっちゃいませんでした。今回のサブプライム問題、90年代の日本のバブル崩壊以上のスケールがあるような気がしてなりません。

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サブプライム問題とは何か。教科書的な話から云えば、米国の住宅ローンのうち、低所得者に貸し出されるものをサブプライムローンと称しています。ちなみに、普通の住宅ローンはプライムローン。

日本の場合、住宅ローンはお金を返済する能力のある人にしか貸し出しをしません。審査と称して、勤務先や収入、家族構成まで提出させられ、あげくはローン対象の家が燃えても借り手が借金を返せるようにと火災保険まで入ることを義務付けられるのが普通です。

一方、米国ではそんな審査があるのかないのか知りませんが、お金がない人にまで貸し出す制度があるのです。ただ、ローン金利を普通のより高くして貸し倒れの危険性に備えています。おまけに最初の2,3年は低金利で客を誘導しておいて、その後で高い金利にするのもあり。これらがサブプライムローンというわけです。

問題を引き起こすのは、借り手の節操のなさとそれにつけ込んだ不動産業者が悪いからだと当初の私は思っていましたが、そんな単純でキレイな話ではないことを著者は米国経験を踏まえながら赤裸々に解説しています。

だいたい、家のローンを家の返済に使わず、車の購入費や生活費に充てるのは普通だという米国流にも??ですが、土地や建物の値段は上り続けるから大丈夫だと考え、転売なり借り換えなりローンの組み替えで乗り切れる・・・、というのは以前の日本でも昔聞いたような話。

そこにつけ込む業者のやり方もエグイ。NINJAローンってご存じですか。この本によると、No Income No Job&Asset 、つまり収入なし仕事や財産なしでも借りられます・・・というそうな。そんなローンまで闊歩しているようでは破綻するのも当たり前。

業者は業者でローンを組ませることに専念し、後は野となれ山となれ。別の金融機関に転売してしまえばオシマイ。そのためのはウソ、ダマシ、オドシでも何でもする・・・、著者は「略奪的貸付」と称していますが、借り手の生活や人生に全く配慮しない悪魔の仕事だと云っても言い過ぎではないでしょう。

じゃ、なぜ米国の住宅ローン負債が世界中の金融不安に繋がるのか。ここが問題を一番複雑怪奇にしている点で、このとんでもないローンを証券化して高金利商品に仕立て上げ、世界中に売りさばいた金融機関がいるのです。それがシティとかGSとか、いわゆる投資銀行という輩。その高金利商品にトリプルA等という最高級格付けを与えた格付け機関の責任も甚大ですが、それに釣られて世界中の銀行や投資機関がこの証券を買い込んだ結果が今回の件になっています。

このローン、証券化して世界中に散乱したが故に、いったい誰が債権者なのかもはっきりわからない。これでは簡単に解決するはずもなし。一時は日本の不動産バブルよりも解決は楽だなんて無責任なコメントを出す評論家がいっぱいいましたが、それもだんだん鳴りを潜め、次の大爆発に戦々恐々という有様です。

さてさて、詳しい話は本を読んでもらうとして、著者は米国の住宅価格の低下は消費経済を疲弊させ、引いては世界経済の今後を厳しいものにすると指摘しています。著者の分析に立てば、その通りだと思わざるを得ませんし、当然、日本も落ち込む国の1つでしょう。

加えて資源価格の高騰が追い打ちをかけ、米国帝国主義を崩壊させるというのも著者の予想。一方で中南米諸国に経済自立の道が見えてきたとの評価も首肯できます。ただ、それが今後の米国の政策や戦争経済?!にどう影響していくのか。何かオソロシイ。

また著者は最後に日本で流行つつあるリバースモーゲージローンに触れ、それが今回のサブプライム問題と同じ根っこにあることを指摘し、今後を憂えています。これだけでも傾聴に値します。株やファンドを買っている人やお金のことに関心がある人で、サブプライム問題の実体や日本への影響を知りたい方々は是非ご一読を。