ワインの値段

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mton98.jpgエコはエコでも今日はお金の方。

鈴木宗男議員の質問主意書に対し外務省が回答した中に「03年度に24本仕入れた仏ボルドー産「シャトー・ムートン・ロートシルト1998」の2万6370円。・・・」(毎日新聞 11/30)というのを見つけました。ちょうど拙宅にも同じものがあるので調べてみると、2002年7月29日購入で当時15,800円(エノテカ)。1年で1.7倍になったのか、それとも外務省購入価格が正当なのか、いやいや外務省が業者にぼられているのか、ぼられ値段をつけておいてキックバックでも貰っているのか・・・、さてどれでしょう?

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生クサイ話ですが、このワイン、現在の販売価格はいくらかというと、外務省購入値段よりも少し安い程度から高いのでは4万円以上。なぜそんなに値段が違うのか? ワインというのは不思議な商品で、先の外務省購入価格もそうですが、同じものにいくつもの価格があり(一物多価)、年によっても異なってくるのはどうしてなのか?(経年変化)・・・そんな疑問を感じる方が当然ではないでしょうか。

同じワインであるとすれば、生産以降が問題となります。どこで保存されているのか、原産地のシャトーなのか、取引業者の倉庫なのか、フランスなのか国内なのか、あるいはそれ以外の国なのか、輸送はどう行ったのか、ちゃんと冷蔵だったのかどうか、温度管理のない船便だったのか。国内に着いたからお店までの経路はどうだったのか、お店の保存方法はどうなっているのか、そもそも信用できる業者の手を経ているのかどうか・・・考えていけば山ほどでてきますが、これらはすべて小売り価格に影響を与えてきます。

実際のところ、温度管理が失敗したワインなどは価値がないものですから、きちんとしたものと同じモノとは言い難く、値段が違って当たり前。つまり、ワインとは途中経路の信頼度や確実性で金銭で測る価値は全く違ったものとなる、そういう商品なのです。

だからといって、値段だけ高くつけるケースもありますから、高いワインだから安心だともいえません。さらにタチが悪いことに、有名なものには偽物も混じっています。よく聞くのはシャンパンのドンペリ。味がわからない人が多いことに乗じて別の発泡酒を詰め、ビンやラベルだけをそっくりにするという手口だそうですが、イヤですねぇ。

わけのわからないものには近づくな、生産者や途中の業者がはっきりしないものは信用してはいけない。そんなことは何もワインだけではありません。最近話題になった赤福や吉兆のように老舗といわれる業者にもインチキがある時代ですから、ワインであろうと何であろうと自分でその正体を確認できないものには要注意ということなのでしょう、きっと。

まだまだ値段に関する話はあります。たとえばワインの、とくに高価なものは飲む時期を選びます。グランヴァンと呼ばれるような上記ムートンやラトゥール、あるいはマルゴーのようなボルドー等は、出荷されて店頭に並んでもまだ10年以上は飲めません。正確には美味しく飲めませんというべきでしょうが、香りや味が最高潮に達するのにえらく時間を要するのです。厄介なことに、だんだん味や香りの完成度が明らかになるにつれて値段も鰻登りになるため、当初価格の数倍数十倍になることもまま。

買ってから10年くらいは寝かせることのできる人、あるいは10年以上寝かせた後のハネ騰がった価格で購入できる人は、天にも昇るような飲み物にありつける・・・。つまり、時間に余裕がある人か、あるいは時間をお金で買えるようなお金持ちだけが手に入れられる贅沢というわけです。

私が選べるのは前者ですから、出た直後に比較的安く買っておいて10年以上我慢するしか方法がありません。パーカーさんによると、98年ムートンは2012年からが飲み頃とか。さてさて飲めるのはいつののことやら。私の友人知人の皆様へ、運が良ければ2012年以降ごいっしょしましょうね。

なんだかんだで、ワインの値段とはホンマにわからない。先の外務省価格も受託業者の質如何ですから必ずしも高い・ぼられているとは言い難い。もともと上質なワインは飲み物というより自然と人為が織り成すアートみたいもの。その価値は絵画や彫刻のようなものですから、値付けそのものが難しいことも事情を複雑にしています。

まぁ値段は複雑怪奇・・・というのは少しオーヴァーかもしれません。よくよく考えてみると、地域性やその生産方法や管理が違うものを1つの値段に固定する方が変ですし、みかけはいっしょでも、まずいものと美味しいものが同じ値段というのも奇妙です。将来お米や味噌などの日常の食べ物にも大きな価格格差がでてきそう。昨今の資源価格の値上がりに際し、そんなことを思うこの頃です。

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2001年(右)〜2004年(左)

さて、このワインの蘊蓄話をいくつか。ロートシルトという呼び名はドイツ語発音で、フランス語ではロスチルド。英語ならロスチャイルド。そうです、あのロスチャイルド家のロスチャイルド。系図をひっぱり出せば面白いかもしれません。

もうひとつ。ムートンのエチケット(ワインラベルのこと)はその年毎に画家に絵を描かせるという趣向があり*、98年を描いたのはメキシコのルフィーノ・タマヨさん。タマヨさんといえば、最近ごみの山から100万ドルの絵が発見されたとのニュースで話題になりました。あの画家です。また、日本人の絵描きでは堂本尚郎さん(おじさんは堂本印象氏)と節子・バルテュスさんの2人が描いていますし、73年はあまりデキが良くないけどピカソの絵なのでワインの値段が高いとか、蘊蓄話の宝庫になっています。それらを楽しめばさらに味わいが深まりますね(笑)。

*例外は2000年と2003年。2000年は新世紀記念で黄金の羊の彫り込み!、2003年はシャトーの150周年記念でナタリエル男爵の肖像画。ついでながら2004年はチャールズ皇太子。