象を飼う -中古住宅で暮らす法-

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象を飼う 中古住宅のススメ <仮 />村松伸 著 晶文社 2004年4月30日

奇妙なタイトルですが、家づくりの話です。著名建築家の建てた家を中古で購入し、それを自分の家に変えていく、その過程の紹介となっています。はたして、象を飼うとはいかなる意味なのか。…


最初、この本のタイトルを見た時、はたと腑に落ちるものがあり、出版直後一気に読みました。そして私の予想は当たっていました。この本曰く、家の世話をするというのは巨大なペットを飼うようなものだ、とのこと。やっぱりそういう意味だったんですね。象を飼うとはどのような面倒さなのか、私にはわかりませんが、この家の場合、台風で雨漏りしたり、いろいろ点検しないと住めないらしく、大変そうなのはわかります。たとえそうでなくても、暮らしやすさを維持するためには家に手を入れなければならないという意見に私も賛同します。だって、家はでっかい生き物?!ですから。

著者は東大の建築史の先生で、お連れ合いも大学の先生。自分らが暮らしたい家のイメージをしっかり描き、そして妥協しなかった結果としての「象の家」。

家とは何か。機能ではない、記憶だ、と著者の「やや長いあとがき」にありました。その意味するところも文章から滲んでいます。章タイトルが「家と闘う」「象を飼う」「家に淫す」…となっているのも内容を示唆していて興味深い。きれいな写真もいうことなし。

人それぞれで家それぞれ。家づくり本では書き手が意識しようがしまいが、著者の心情や信念・思想みたいなものまで暴露してしまうのが一番コワイ。でも、この本には変な背伸びやイヤミがなく、読後に爽快感さえ感じさせます。著者やそのご家族の成熟度のなせる技といって良いかもしれません。

家づくりがうまくいくかどうか。それはなによりもまず、どのように自分の思いを上手につぎ込むか、ではないでしょうか。その実践例として、この本をお薦めします。とくに、素材仕様や設備仕様に執着しすぎる人は、一度頭を冷やして、こういった本を是非読んではどうでしょうか。