率先市民主義

.Books&DVD…

防災ボランティア論 講義ノート
林春夫 著 晃洋書房 2001年4月30日発行 税込価格: ¥1,470 (本体: ¥1,400)

大地震が起きた時、私たちはどうしたらいいのか。この本には、その大切なヒントが満載です。著者は現在京大防災研の教授。1983年の日本海中部地震(M7.7)で多くの人命が失われたことをきっかけに、被災者の視点から防災を研究しようと考えたとのこと。本書では、阪神大震災を例にとりながら、防災の主体は私たち一人一人であること、そのための原則とは如何なるものか、を模索しています。…


神戸黒書同様、この本でも、中規模の地震がなぜ大災害となったのか、そこからスタートします。著者の分析では「社会の防災力」が低かった、社会の有様が被害の大きさに繋がったとし、消火と防火の例を引きながら、日本では希にしか起こらない地震に対しては被害が出た時にどうするかという対応がなされてこなかったと指摘しています。この視点はいまだこの国に欠けているのではないでしょうか。

自治体が地域の防災体制を整えていくという話をよく聞きます。でも、実態は自治会や婦人会などの組織との連携を密にし(時には宴席)、お金を使って形式を整えることを指します。阪神大震災でそれらがどう活かされたのか、新潟中部地震ではどうなったのか。結果からいえば、あまり役に立たなかったというべきところで、この本でもそのことが指摘されている通りです。当局と自治会などの馴れ合いを考慮するなら、次の大災害で当てにできるかのかどうか。私が言うまでもありません。東京の下町では新住民には備蓄水は渡さない公言して憚らない自治会もあると聞いたことがありますが、そんなことでは社会の防災力も何もありませんよね。

著者はボランティアの歴史を紹介しながら、これからのあり方を展開していきます。
阪神大震災の時、ボランティアが何をしていたかを説明する箇所で、避難所のトイレの話が出てきますが、これも大手メディアにはまず登場しない話。水洗が使えない場合の大のトイレの後始末は想像を絶するような事態を招きます。その掃除は鼻をつまんでもかなわないことになります。そのせいか、炊き出しなどに勤しむ大学生などがトイレ掃除ではいなくなった、やっていたのは地元の高校生だったというのです。著者は、そんな大学生を批判するでもなく、相手から「ありがとう」と直接云ってもらえる作業だけでなく、現場で求められていることをするのがボランティアだと優しく指摘しています。この辺に著者の人柄を感じますね。

さて、著者のいうボランティアの5原則とは、自主性、社会性、無償性、創造性、継続性のこと。阪神大震災の時の実例を踏まえながら、その内容を展開していきますが、著者のいう無償性とは、ボランティアはただ働きというのとは全く違い、むしろ、お金を受け取ることに何も問題もないとしている点が卓見です。また、阪神大震災の時に行政側がボランティア保険を支払ったことに関し、作業の特性からいって行政側が支払うものではなかった、とする点に筋の通ったものを感じました。

この本を読みながら、レベルの高いボランティアを組織するのは難事業だなと思っていると、著者曰く「この能力は残念ながら訓練や学習で養えるものではなく、生まれつきのもの」とし、ボランティアコーディネーションには経営の才能の必要性を指摘しています。だとしたら、災害前にその才能をもつ者をどうやって確保しておくか、あるいは行政との厄介な関わり方をどうするのか、そこらが気になりましたが、本書では回答は得られません。気になった者は自分でなんとかしろ、というわけなのでしょうか。

最後のまとめ辺りで、災害対応は個々人の真価が問われる実力勝負の場。災害時に発生するさまざまのニーズに柔軟に対応できる人がいることが、その地域の防災力を高める、他者との関わりが大切云々…と説明されており、その役目を担うのが「率先市民」だ、というのが著者の造語の意味するところであることがわかります。

ボランティアに興味のある人、災害対応のあり方について知りたい方には貴重な一冊となるはずです。お薦め。

(2005/01/27 訂正書き換え)