真似と盗み

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戦略は直観に従う ―イノベーションの偉人に学ぶ発想の法則詩人のT.S.エリオット曰く、「二流の詩人は模倣する。一流の詩人は盗む」なんだそうで。わかるようなわからん話ですが、左に挙げた本の著者のダガンさんはいろんな分野での実例を挙げて解説。ジョブズはともかく、ピカソやモーツァルトにまでオリジナルが別にあるというのは驚き。

まず、スティーブ・ジョブズ。アップル創業者の1人。画期的なMacintoshコンピュータは、当時のゼロックスの先進的な技術を盗んだものであることは広く知られています。

彼がゼロックスで見たのはマウス操作のグラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)。それを実現するために小型パソコンのMacを開発し、世に送り出しました。注目すべきは、そっくりそのまま真似たのではなく自分流に作り直したこと。ダガンはそれを「盗む」と表現したのです。

Macが出たのは1984年。当時の価格はUS$2500。一方、ゼロックスの方はUS$16000。使い易さもMacが上とくれば勝負は決まり。肝心のGUIやマウスはもともと60年代にスタンフォードで開発された公有財産だったのでゼロックスがジョブズを訴えることはできませんでした。

ジョブズはGUIがその後のパソコンの標準になると睨み、それを広めたのですが、本人曰く、「創造性とは物事を結びつけること」で、「自ら何かを創造したわけではなく、単に何かを見い出しただけ」とのこと。ただし、その「見い出し」には経験とインスピレーションが要ることは云うまでもありません。おそらく、そこに才能とか運とかいうのが在るのでしょう、きっと。

ところで、ビル・ゲイツはその10年後にWindows95でやっとGUIを実現。内容を見てダガン流にいえば、「ジョブズは盗み、ゲイツは真似た」ことになりますね。お金儲けの巧さは別として、そこらの違いが2人を分けていますわ、ホンマ。

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次はピカソ。
ピカソが「青の時代」から「キュービズム」に変わったのはマティスの「生きる喜び」を見たのがきっかけとか。これまで、マティスの一連の絵はピカソの真似かなぁと思ってましたが、逆だったんですね(苦笑)。ピカソはマティスの絵とアフリカ彫刻から、自身を後世に残す画風を生み出したんですねぇ。

バルセロナにあるピカソ美術館を訪れると、「青の時代」の絵をたくさん観ることができます。でも私自身どうしてもわからなかったのが、写実的で絵筆使いも普通の絵がどうしてあの抽象的な画風に変わったのか、ということ。でも、マティスの「生きる喜び」とか「ダンス」とかを間に置けば、何となく納得できます。これで私の長年の疑問も解けました。良かった?!。

何がいいたいかと云うと、ピカソの独創性と云われているものは他の画家の技法やインスピレーションから由来しているということ。

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そしてモーツァルト。
天才の名を欲しいままにしている彼ですが、実際は当時の作家、ミスリヴェチェクのスタイルやメロディをパクっていることが既に判明しているそうな。ホンマかいなぁですが、史実的にはそうらしい。そのことをダガンは出典を示しながら説明しています。ただ、モーツァルトはその後どんどん独自の作風になっていくわけですから、最初の真似は単なる真似ではなく、他人の独創性を「盗んだ」ということなのでしょう。

で、最初のエリオットの話に繋がっていくわけです。ダガンさんはシェイクスピアもそうだと説明していますから、まぁエリオットさんは自分を含め、いろいろ知った上での格言だったというわけでしょう。

要するに創造性とは組み合わせであり、過去の断片的な要素を新たな方法で組み合わせることによって生み出されるということ。う〜〜ん、わかったようなわからないような。でも、何かほっとする話ですね(何が?)。