リウー そしてカミュとベケット

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毎日堅苦しい話ばかりで気疲れさせてすいません。今回は漫画の話。タイトルは「リウーを待ちながら」。

作者の朱戸アオさんは「インハンド」で知っていましたが、感染症を題材にした本作品もあります。かく云う私も何かの雑誌で知ったばかりですが、先週全三巻を一気に読み。変異したペスト菌によって一つの街が感染し、ロックダウンするという内容に、まさしく今を感じてしまいました。内容の面白さは云うまでもなく、感染症の恐ろしさや免疫の大切さを実感するためにも是非どうぞ。

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アルベール・カミュの小説に『ペスト』というのがあります。ここ最近のCOVID-19のおかげで新潮社に大量注文が入り、急遽増刷中らしい。カミュといえば、私には『シーシュポスの神話』の方が好みですが、アルジェリア出身の作家にとって地元を舞台にした『ペスト』にはいろいろな思い入れがあるのでしょうね、きっと。

その『ペスト』の主人公の名前がリウー、それが漫画タイトルの由来です。また、表紙の作者名とともに「rouge et Azur」という洒落から察すると、タイトル名はベケットの小説からのモジリでしょう。それはさておき、

この漫画で取り上げたのは多剤耐性のペスト菌。それもエボラ並みに凄まじい肺ペストで、中世の黒死病の原因だった腺ペストではありません。登場するのは小さな町の病院の医者看護師、感染症学者、自衛隊等々で、それぞれの人生模様を織り交ぜながら絶望的な状況に向かい合っていくというストーリー。

内容は読んでのお楽しみということにして、この漫画には感染対応に関するヒントがいっぱい。

そして、漫画を読みながら改めて思い出したのが、先日の感染クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の話です。


あの時、自衛隊側から「船の乗員に替わって対応したい」という提案があったと何かの雑誌で読みました。感染・非感染の双方がごっちゃになっている船内で飲食や生活上のサービスを担う船員には生命の危険だけでなく、感染を広げてしまう可能性もあるため、自衛隊がその替わりを勤めようというものです。

というのも、あの時点で正体不明の感染症に対応できる組織がこの国にあるとすれば、それはバイオテロ対応の特殊訓練を受けている自衛隊以外にはありません。でも船会社はその提案を拒否。結果は皆さんの知るとおり。一番歯痒かったのは当初から結果を予想していた自衛隊の方ではないでしょうか。

自衛隊を招集するには然るべき筋からの要請が必要だと抗弁する人がいるでしょうが、漫画「リウーを待ちながら」ではその辺をスマートに突破します。読んでいて思わず拍手(遵法性は別、念のため)。

もう1つ。漫画で感染死してしまう院長が最後に飲むのが1982年のシャトー・マルゴー。チェックしてみたら、PP98+(82年は良年)。何かもの悲しさを覚えてしまいました。

『ペスト』はなかなか骨が折れる小説ですが、「リウーを待ちながら」は漫画であることもあって読み易いこと請け負います。是非どうぞ。