小さなアリと巨象の戦い

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会長はなぜ自殺したか―金融腐敗=呪縛の検証 (ノンフィクション・シリーズ“人間” 7)「会長はなぜ自殺したか 金融腐敗=呪縛の検証」、著者は読売新聞清武班。

先日七ツ森書館から、「小さなアリは巨象に挑む」と題する文書が届きました。七ツ森書館が復刻した1冊の本に対し、読売新聞社が出版契約を解除したいと言い出してきたそうな。出版社側が拒否すると読売側は契約無効確認請求と称した裁判を東京地裁へ提訴。執筆者代表が清武英利さんというのが気にいらないのか、巨象たる読売がわずか5人の出版社に襲いかかったという話。なんやねん、これ。

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野球の読売巨人(注)の人事をめぐって、渡邊恒雄会長と清武英利前球団代表が争っていることは、その手の話に疎い私でも知っていました。でも、清武という名字を聞いた時、どこかで聞いた名前だなぁと引っ掛かりを感じていたところ、七ツ森書館のお便りを読んで、あぁ、あの清武さんなのかと思い出した次第。彼は90年代金融汚職の実態に鋭く迫っていた読売新聞の事件記者、その人です。

この本は2000年に出版されたものを復刊させたもので、対象になっている事件とは1990年代に発覚した証券業界の損失補填をめぐるもの。証券業界と総会屋、そして官僚、政治家との醜い関係を、東京地検特捜の捜査を軸としながら取材した記録です。

もう既に忘れてしまった人も多いかもしれませんが、あの事件では自殺者がたくさん出ました。第一勧銀の宮崎元会長をはじめ、政治家では新井将敬議員、役人では日銀理事や大蔵省等の役人等4名もの人たちが命を絶ったのです。いったい何のため? ストレスが昂じての自死なのか、それとも証拠隠滅で消されたのか。外野にはわかりませんが、死ぬくらいなら初めからアホなことするなよ!って云いたい位です。

いずれにしても、この国の証券業界や銀行業界には非合法な連中が棲み着いていること、そこに政治家や官僚が絡み利権を貪っていたり、一方で脅されていたりの醜悪な関係を続けていること、そんなことが本から読み取れます。おそらく今でもそうなんでしょう。

そういう意味で、オリンパスの事件や大王製紙の事件の背後にも厄介な連中の影を見てしまうのですが、御用メディアはなかなかそのことを表に出しません。ケイマン経由のオリンパスのお金は闇社会に流れたのではないのか、あるいは、大王製紙のボンはマカオでギャンブルやった政治家の尻ぬぐいをしていたのではないのか等々の話です。

数日前に出てきた、SMBC日興証券の元執行役員らが行ったインサイダー取引だって、個人的な問題なのか、背後に組織が絡んでいないのか、気になるところです。原発問題同様、金融問題に関しても大手メディアはその一味だから、真相に迫るようなことは書けないのでしょう。そういう意味ではこの本は特筆ものだし、よく読売新聞がここまで追ったものだと思わざるを得ません。

それはさておき、読売新聞がこの本の出版契約にまで手を出してくるとはちょっと驚きました。だって、読売記者の汗と涙と良心が詰まっている本の出版を止めようというのは、自社のアイデンティティやプライドをぶち壊しにするのといっしょ。

ナベツネと清武さんの諍いはよ〜わかりませんが、もうメチャクチャ。だいいち、一度契約したものを勝手に解除するというのは大企業の横暴でしかありません。翻って、そういう横暴を通すというような読売だからこそ、球団人事をめぐる揉め事もナベツネ側の理不尽だと傍証したようなものかもしれません。

この本をめぐる裁判沙汰も野球の人事問題も、私たちには窺い知れない腐った樹木の、その根の深さを感じさせてしまいます。

〔注)巷では読売巨人軍と云います。他の球団はそういう云い方はしません。軍国主義をイメージさせるのはアナクロなのか、わざとなのか。実にイヤな云い方です。私思うに、この軍付けは軍国主義の復活を待ち望む人たちによる一種の洗脳教育なのでは?