複合汚染

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有吉佐和子 新潮社 1975年 4月20日/7月1日

この本が出たのは、私が大学の1回生の時。公害や環境問題に関わる勉強をするために選んだ進路の1年目だったこともあり、発行と同時に買い求め、貪るように読みました。そして、大切なことをたくさん学びました。…



この本は小説のようでそうではなく、かといってルポルタージュやノンフィクションというわけでもありません。なぜ、中途半端な設定にしたのか。おそらく疑似小説のカタチをとることで、科学的な記載(のミス)に対する保険をかけたのでしょうか。

出だしは、市川房枝さんの参議院選挙の応援から始まります。小説では6年前とされていますから、この小説の時間は執筆時と同じ1974年(昭和49)ということになります。まず、吉武輝子氏の応援演説の中にあった奇形児発生率の高さに驚き、だんだん公害や環境問題を勉強していくという流れになっています。

そして、水俣病、DDT等の農薬汚染、食品添加物と話を進めながら、複合汚染という専門用語について解説していきます。要するに、複合汚染とは、二種類以上の物質による汚染影響のこと。単一汚染物質の影響ですら明確でないのですから、話は簡単ではありません。これは出版当時から30年経った今でも状況は同じです。(だから、予防原則という考えを打ち立てないと未来はないと私は考えます)

薬漬けの農業批判の中にミミズの話が出てくるのですが、そこでダーウィンが登場します。思うに私(記憶にありませんが)、この本でダーウィンとミミズとの関係を知ったのかもしれません。レイチェル・カーソンの名前を日本で広く知らしめたのも、この「複合汚染」だったことが改めてわかりました。生ごみ・コンポストについても、ご近所のご隠居さんを引き合いに出しながら説明がなされています。私が30年かかって少しづつ積み上げてきたことは、だいたいのところ、この本が出典となっていたんだなぁと今更ながら確認した次第です。

確認といえば、2冊目の下巻には石けんの話。当時大学生だった私はこの本がきっかけになって、危険な合成洗剤を使うのをきっぱりやめました。石けん歯磨きに切り替えたのも、この本のおかげでした。また、車の排ガス汚染についても詳しく問題にしています。安全な食べ物に関して産直グループの存在を紹介し、そしてその普及に貢献したのもこの本の大きな成果のひとつだといえましょう。

有吉佐和子といえば、「恍惚の人」のイメージが強い方もおられるでしょうが、私にとっては「複合汚染」は道先案内の書でした。約30年ぶりに読んでも全く古さを感じさせません。有吉さんの筆力なのか、状況がほとんど良くなっていないせいなのか。残念なことに、有吉さんは、この本を出した9年後の1984年に急性心不全でお亡くなりになりました。

蛇足ながら、上巻最初の市川房枝さんの参院選の時に応援をしていた若き日の菅直人氏をめぐるエピソードがあります。最初に読んだ時には気にも止めていませんでしたが、ありそうなことだなと思わせますね。(アマゾンでの紹介は文庫本で1冊になっています)

(2005/01/27 一部書き換え)