ベイジン

.Books&DVD… 3.11

ベイジン〈上〉 (幻冬舎文庫)3.11以前に出版されたもので原発事故を取り扱ったものの1つ。文庫本が出たのが東電福一原発事故直後だったこともあり、原発事故を予測したかのような批評も出ていました。でも、それは偶然の話。滅多なことでは起こらないといいつつ、原発事故はいつどこで起きても不思議ではありませんからね。
〔単行本は2008年7月、文庫本は2011年4月刊行)

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著者の真山仁さんは「ハゲタカ」の作者。「ハゲタカ」はNHKでテレビ化されましたが、原発事故を扱った、こちらの「ベイジン」はNHKでは絶対に取り上げないでしょう。その理由は本サイトをお読みの方には説明するまでもありません。登場人物の台詞の中には、NHKでは流したくないものがたくさん出てきますもんね。

巧妙に構成された人間関係やプロットは小説を読んでいるのか、ルポを読んでいるのか、わからなくなってきます。流石!水素爆発とか使用済み核燃料棒なんか話も、3.11以降ならよくわかるはず。お楽しみは皆さんで、ということで、本の内容はここでは紹介しないことにしましょう。

それにしても、この物語の最後の終わり方って(良い意味で)狡い。ハッピーエンドにはなりにくいし、かといって滅亡的な話では終末的で破綻します。スーパーマン登場とか荒唐無稽なまとめ方ではザーとらしい。でも、救いのない終わり方にはしたくない、ということでの最後なんでしょう。

読み手の裁量にまかせたという処が憎い演出です。敢えて苦言を呈せば、事実というのは、いつだって残酷だということ。原発事故にハッピーエンドはありません(きっぱり)

もう1つ。タイトルのペイジン。そのままなら北京のことですが、著者がなぜこの本のタイトルにしたのでしょうか。私は未だにわかりません。中国が舞台だから? いや違うなぁ。舞台の最後を北京オリンピックに合わせたから? それはありそう。…と考えてきて、

作者の意図とは、多分中国の、一部の者たちの利権追及・賄賂は当たり前という舞台の上で、原発という化け物的存在がどう建設されていくか、そして過酷事故に繋がっていくかを書きつつ、(実は問題としてはほとんど同じの)日本の原発問題に肉迫したいということだったんでしょうね、きっと。そんな気がした本でした。

ポスト3.11の今となっては、この本がホンマにノンフィクションなのか、それさえ曖昧になってしまいました。お薦め。