中国は世界の工場?

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中国経済 あやうい本質 (集英社新書)先々週だったか、浜矩子さんの「中国経済あやうい本質」(集英社文庫)を読みました。いつもながら切れ味の鋭い分析と解説です。とくに面白かったのは、「中国は世界の工場」に纏わる誤解と真相に切り込んでいくところ。目からウロコでした。



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中国は世界の工場、・・・一般にそう云われています。歴史を振り返れば、まず20世紀初頭のイギリスが「世界の工場」でしたし、英国没落後はアメリカ合衆国がその立場を受け継ぎ、戦後は躍進凄まじき日本が「世界の工場」たる地位を築いてきました。現在中国がその役目を担っているということで、「中国は世界の工場」というわけでしょう。

ところが、浜さんは「大きく事情が違う」とのこと。イギリスも米国も日本も、自国の資金で工場を建設し、運営は自国の人々によってなされていたが、中国はいったいどうなっているのか、それを考えてみよ、というわけです。

たしかに、資金も運営も外資系のものがほとんどで、中国は土地や安い労働者を拠出しているだけと云われても仕方のないようなケースが目立ちます。もちろん、そこから共産党幹部が利権を確保し、一部がお金持ちになっている現実もあるのですが、実態はといえば、「中国が世界の工場になった」のではなく、「世界が中国を工場にしている」ということなのです。云われてみればその通りで、目からウロコでした。

大事な問題は、そこから何が見えてくるかということ。中国の発展と中国の人たちの生活改善とはどう繋がっていくのか、あるいは世界が落ち込んだら中国経済に何が起こるのか等々、「中国は世界の工場」的な見方が少し変わるだけで景色が違ってくるのではないでしょうか。

浜さんは本の中でヒト、モノ、カネを追っかけながら、中国の今を探り、今後を見渡そうとしています。結論は、・・・「中国はこれからが本番」で締めくくっているように、中国の危うさは指摘できても明確な姿は見えていないようです。妥当なところで話を落とすのもまぁ流石です(苦笑)。

それにしても、イギリスの詩、日本の落語、その他いろんなものを引っ張り出して自説自論を展開する浜さん。味気ない解説本とは読後感が全く違う。彼女の議論にすべて賛同するわけではありませんが、厄介な議論を親近感を持って読ませる演出は素晴らしい。中国問題の参考書にどうぞ。