東電・政府は何を隠したのか

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検証 福島原発事故・記者会見――東電・政府は何を隠したのか表題は本のサブタイトル。メインタイトルは「検証 福島原発事故・記者会見」。
東電の「情報開示の姿勢に強い疑問」を感じた著者らが3.11当初から記者会見に臨み、事故事件の真相を探っていく、その経緯と内容をまとめたもの。御用メディアの話と決定的に異なるのは、被害者の視点を忘れず、誰にも遠慮なく切り込んでいく姿勢。清々しい! 同じ話でも切り口が違うと見え方が違うという例が満載です。

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この本は3.11から始まる東電原発事故に関する国と東電の見解をテーマ別に整理していて、だれがいつどこで何をどうしたか・なぜゆえに、という報道の基本5W1Hを押さえているので、実にわかりやすい。先日紹介したキレイゴトの田坂本とは大違いだし、ヒモつきメディアとの違いもすぐわかります。

そのテーマとは、メルトダウン、SPEEDI、「想定外」、プルトニウム、作業員の被曝、「汚染水、海へ」、工程表、フリージャーナリスト排除、低線量被曝、何を守ろうとしたのか、の10コ。東電や国の発表が二転三転する様やウソゴマカシがあったこと等をこの本で改めて読むと、この事故の裏にある東電や政府の禍々しさが浮き彫りになってきます。

著者の日隅一雄さんは本業が弁護士、木野龍逸さんはフリーランスのライター&カメラマン。ちょうど、福島県浪江町の牧場経営者がネットで作業内容を公開していたら、それには許可がいる等とした町や国に対し、支援弁護士らが「憲法で禁じられた検閲にあたる」として撤回を申し入れるという話がでていました〔朝日デジタル 2012/5/15)。その弁護士が日隅さん。現在も「原発事故をめぐる情報統制を批判」し続けていらっしゃるようです。正直にいえば、そのニュースを知ったので、この本を紹介をしようと思い立った次第。

この本で初めて知ったことがいくつかありました。たとえば、朝日新聞は3月11日の時点で既にSPEEDIの存在を知って取材を開始していたこと、それを17日か18日の時点で記事にあげていたのに本社が22日まで棚上げ。記事を出しても第5面に少しという有様だったとのこと。

もっと早く、そして多くの人たちがSPEEDI絡みの情報を得ていたら、水素爆発による被曝を少しでも避けることができただろうし、飯舘村等の避難もスムーズに進んだのではないかと思うと、この朝日のやり口は深刻な影を落としています。

また、当初から東電が津波を「想定外」とし、賠償責任を免れようとしていた件で、朝日ではこれがウソであることを掴み記事にしていたのに、本社はそれを棚上げにしたあげく、後日科学面で軽く触れるというだけだったと本で紹介しています。誰にとってそれが得になるのか考えれば、朝日新聞の意図は明らかでしょう。

そして驚いたことに、どちらの記事も、陣頭指揮したのが当時大阪本社の添田孝史記者(デスク)。実は私、添田さんとは約20年来の知り合いで、琵琶湖の環境問題について取材を受けたのが最初でした。その後いろいろ意見交換させてもらったり、琵琶湖のドキュメンタリー映画にどちらも出演したり等のお付き合い。

正義感の強いキレ者というのが氏の印象ですが、東電に気兼ねして市民の命を守ろうとしない朝日新聞当局の姿勢に嫌気が指したのか、見切りをつけたのか。理由はわかりませんが、昨年5月10日に朝日を辞めたことを本書で知りました。しばし愕然。でも、添田さんが知らせようとしたSPEEDIの話や「想定外」のウソについて、少なくとも私は添田さんのお仕事として記憶するため、ここに記しておきます。お疲れ様でした。