放射線被曝を考えよう その3 権利侵害

.opinion 3.11

学校環境での20ミリシーベルト(mSv)基準の危険性については既に紹介しました。今回は、その基準を強いる国や学者の理不尽さについて考えてみましょう。

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1. 原因は東電福一原発

仮にあなたが、ガンだと宣告されたとします。その原因は何でしょうか? タバコ? クルマの排ガス? 食べ物の中の有害物質? 家系を疑う人もいることでしょう。でも、本当のところはわからない。ガン細胞には原因の明示がないからです。

では、今回の東京電力・福島第一原発事故はどうでしょうか。原子力発電所から放出された放射性物質が原因で被曝が引き起こされ、将来ガンになる危険性が増えることが推測できます(注)。原発からの放射線で被曝→細胞のDNAに異常→ガン細胞化→ガンの発症、と因果を繋ぐラインははっきり見えています。

それなのに、今回の被曝でガンになっても他のガンと区別がつかない、だから問題にする必要がない等と発言している学者もいます。しかしこれは、原因と責任を隠蔽するだけです。つまり、原因である東電福一原発の問題を隠し、その原因を作った者たちの責任を不問にしてしまいます。

2. 同意か不同意か、嗜好か強制か

原発事故による被曝に対し、誰も同意していたわけではありません。当たり前じゃないですか。そうでしょ? 同意していない限り、権利侵害の問題として考えるべきであり、リスクと便益を天秤にかける議論に入り込む必要はありません。体の状態を調べるために同意してレントゲン検査を受ける、というのと同等に扱ってはいけません。そうしようとする人がいたら、その意図をまず疑いましょう。

また、食べ物中の有害物質やタバコ等でもガンになるから放射線だけ騒ぐな、等という話にも惑わされてはいけません。なぜなら、これらのリスクは避けようと思えば避けられる危険だからです。個人の嗜好や選択可能性を無視して、原発事故による強制・不同意の被曝リスクと同列に扱うことは、明らかに公正さを欠いています。タバコ等の危険度の大きさと比べることはできるでしょうが、その大小に意味はありません。

3. 原因者側が安心を説教

今回、福島県等の人々に不同意の被曝を強制したのは、まず第一に原発のオーナーである東京電力。そして、原子力発電を推進してきた国、電力会社、関連業界、学者等々。さらに、マスコミや一部の地方自治体も原発推進に与してきました。そして、政府、学者、マスコミ等が一体となって「今回の原発事故はただちに健康に影響があるレベルではないので、安心してね」とキャンペーンを張っています。そして、何年か先にガンになる可能性が増えることには、なるべく気づかれないようにしています。

今あなたが誰かに殴られたとしましょう。殴った者があなたに、今の痛みはたいした痛みではないので、気にしないでね、安心してね、と云ってきたら、どう思いますか? そんな勝手な言い分には納得できないどころか、二重に殴られたような怒りを感じるはずです。

今回被曝を強制する側に与する者たち、とくに福島県が委嘱したリスクアドバイザーなる学者らが説明しているのはそれといっしょ。不同意・強制で原因明確な被曝なのに、それを問題にするなと云っているからです。いくら彼らが中立を装っても、被曝者の権利侵害に思いを寄せられないとしたら、それは被曝を強制する側からの懐柔でしかありません。ましてや、あなたたちは福島から逃げられない、だから被曝を受け入れるべきだ等という彼らの言い分には悪意を感じます。

4. 被曝は深刻 

今まで述べてきたことを、もう一度繰り返します。

放射線被曝によって将来ガンになる危険性については、ICRP等がそのリスクを数値化しています。でも、確率的評価についての判断はそれなりに難しいため、フクシマ・ルーレットで考えてみてはどうかというのと、WHOの基準(10のマイナス5乗レベル)と比較する方法を提示しました。

でも、原因が原発だとはっきりしている放射線被曝については、生きる権利の侵害であることから話を始めるべきであり、権利侵害した側やそれに加担する側が安全論を展開するのは全くのお門違いです。

もし、レントゲンによる被曝と比較する話が出てきたら、同意・不同意の違いを考えてみて下さい。また、ガンの危険性はタバコよりも少ない等という話には、選択可能性の有無を考えてみて下さい。どちらの話も加害者側を利する、理不尽な例でしかないことがわかるはずです。

先に指摘したように、学校現場での20mSv基準はかなり危険です。問題にすべきは飲食物まで含めた総合的な被曝であり、空間線量だけの20mSv是非論に入り込むのは事態の過小評価でしかありません。そして、このままフクシマ・ルーレットを許してしまったら、その代償は被曝者の健康や命で払うことになってしまいます。

今後何が起こるのか予断を許しません。被曝地域から放射性物質を取り除かない限り、空気だけでなく、水や食べ物由来の被曝が長く定着していきます。やはり「できるだけ遠くに、余裕のあるうちに」が肝心です。せめて子どもたちだけでも疎開させること、残らざるを得ない大人については避難地域の拡大と生活保障の強化を実現させることが必要でしょう。しかし、理想を語っても何の役にも立たないじゃないかという言い分もあることでしょう。それでも敢えて云えば、命と引換にできる大義名分はありません。個人的には国に頼るな・自治体に頼るなと云いたいくらいです。

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(注)今回の原発事故で、国や学者たちが「ただちには健康影響なし」とか「現時点では健康に問題なし」というのは、急性障害についての話であり、晩発的な影響についての話ではないことは既に説明しました。将来出てくるガンなどについては、とりあえず先送りして誤魔化そうという意図を感じさせます。
また、被曝線量100mSv以下ならヒトへの被害はないと説明する学者がいるのには驚きました。それは単に彼らがデータをきちんと解析していないだけ。一般に有害物質の確率的危険性を論じる場合、ヒトに対するデータが揃っている場合は少なく、動物実験や疫学調査などを駆使してヒトに対する危険性を推測しています。でも、日本の放射線医学者はそれができないのでしょうか。有害物質の研究者としては信じられません。ましてや、わからないから安全と主張するなんて、安全を求める側の発想ではありません。