放射線被曝を考えよう その2 フクシマ・ルーレット

.opinion 3.11

一生涯のガン死亡リスクが1%と聞いて、どんな印象を持ちますか? ものすごく危険だと考えるのか、それともあまり危険ではないと思うのか。確率的な評価では、危険か安全かの二者択一は難しい。じゃ、どう考えればいいでしょう?

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1. ガンで死ぬリスク

ある物質によってガンで死ぬリスクが1%、とはどれくらいの危険性なのでしょうか。この割合は100人に1人がガンで死ぬということ以上でも以下でもありません。こういう数字は桁数が問題なのですが、確率的にみるといっても、これだけでは何のことだかよくわかりません。

こんな例えはどうでしょうか? ロシアン・ルーレットならぬフクシマ・ルーレット。ここに100発銃弾が入る拳銃があります(そんな銃はないというツッコミはなしね)。そのうち1発はホンモノで、残り99発は空。一生に1回引き金を引かなければならない運命だとしましょう。ただし、引き金を引く時期は、あなた自身が決めるわけにはいきません。そんな賭けに乗りますか。理不尽だと思いませんか。

放射線被曝であろうが、発ガン物質であろうが、ガンで死ぬ確率が100分の1というのは、上の話と同じようなもの。どうです? これで少しは危険性のマガマガしさがわかりましたでしょうか。とても容認できるレベルの話じゃないはずです。

もう1桁危険度が少ないケースなら、999発が空で1発が実弾入りの1000発拳銃をイメージしてみて下さい。弾の数が1桁増えても安堵感はそれほど増えないしょう? それが普通の人間の感覚です。でも、そんなのは感覚的感情的な話じゃないかという批判もあることでしょう。想像力にも理屈が必要だという人には、もう少し精緻な話を用意しましょう。

2. 無視できるリスクとは

放射線被曝によるガンや遺伝影響には、これ以下なら安全だというしきい値(閾値)がありません。ICRP(国際放射線防護委員会)がそう説明しています(注1)。ということは、どんなに小さな被曝でもそれに応じた被害があるということ。それなら、日々の生活の中でどのように対処すべきでしょうか。

この難題を解くためには、話を逆転させて考えるのが通例です。要するに、危険なレベルを探ろうとしても難しいので、発想を逆転させ、無視できるような小さいレベルはどれくらいかをまず見積もり、それと問題になる汚染レベルとを比較しようというわけです。

参考になるのはWHO(国際保健機構)の考え方。WHOでは発ガン性物質のようなしきい値のない物質の危険性を考える場合、一生涯のリスクとして10のマイナス5乗(10万分の1)を目安にしています。これは、世界各国で発がん性物質の危険性を評価する場合に一般的に採用されている目安であり、国際的にも一応納得できるレベルだと考えられます。

また、自然放射線による被曝は年間1.5mSv(日本平均)なので、その変動範囲として1割程度を無視できるレベルと考えると、こちらも10のマイナス5乗レベル。先のWHOと同程度になります(注2)。

さぁ、これで比較のモノサシができました。この10のマイナス5乗リスクに対して、問題となっているリスクがどの程度大きいのか、それをチェックしてみます。

3. 1%リスクは大きすぎる!

具体的に考えてみましょう。国(文科省)は福島県の小中学校において時間当たり3.8マイクロシーベルトの被曝なら問題なしとしていますが、この指針は年間20ミリシーベルト(mSv)までの被曝を認めてしまうことになります。

20mSv被爆の場合の危険性は、一生涯においてガンで死亡する確率として、0.1%(ICRP)、0.2%(値切りなしICRP)、0.8%(ゴフマン)、1.2%(ECRR)です。リスクは、0.1%~1.2%と1桁の幅はありますが、さきほど挙げたWHOの「10のマイナス5乗リスク(10万分の1=0.001%)」に比べると、一番小さなICRP基準でも100倍、より危険性を評価するECRR基準では1200倍です。

先に説明したように、これは空間線量だけの話ですから、飲食物まで含めて考えるなら、危険度はもっと高いとみなければなりません。仮に3倍だとすると、WHOの基準の300倍以上。ECRR基準なら3600倍。先のフクシマ・ルーレットでいえば、27発~333発入りの拳銃の引き金を引くことになります。これを問題なしとするのは常識的に無理です。これが確率的評価の結論(きっぱり)。絶句したと私が先日云ったのはそういうわけです。

世界中の研究者やメディアが20mSv基準を危険だと問題視するのは当たり前で、これを大丈夫という日本の学者はいったい何を考えているのか、私にはさっぱりわかりません。日本の「学問常識」は世界の非常識なのでしょうか。それとも、ガンになるのは将来のことなので今心配しても仕方なし、だから問題なし、みたいなものなのでしょうか。

日本人の死亡原因をみると3人に1人はガンで死ぬんだから、原発事故による放射線被曝で少しくらいガンで死ぬ人が増えても違いは分かりにくい、だから問題なし、という言う人もいるようです。この説明のもつ犯罪性と理不尽さについては次回考えてみます。(続く)

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(注1)日本の学者が被曝影響にしきい値があるかのように説明するのは急性障害の話。確率的影響で考えるガンなどの晩発性影響とごっちゃにして誤魔化そうという意図を持つ人も中にはいます。要注意。

(注2)自然放射線の変動範囲を無視できるリスクとする推論は私的推論で公的な話ではありません。