放射線被曝を考えよう その1 被曝の危険性

.opinion 3.11

既にご存じの方も多いと思いますが、放射線被曝のリスクについて、ICRP等が出している勧告や基準を整理してみます。

・・・・・・・

1. ICRP(国際放射線防護委員会)2007

ICRPは2007年勧告で、低線量被曝の場合の確率的影響として、「ガン死リスク(全集団)は1シーベルト(Sv)当たり約5%」としました(注)。ICRPは、内部被曝について特別な係数を設けて評価したような体裁をとっていますが、その不確かさは10の2乗オーダーだと関係者が証言しており、曖昧です。ちなみにICRP1990では「1Sv当たりのガン死リスクは7.3%」でした。

実は、上記ICRP 2007勧告は、低線量域について線型性が不明瞭等の理由で、DDREF(線量・線量率効果係数)を2として影響を半分に減らしています。この仮定をはずすと「ガン死リスクは1Svあたり10%」。これが値切りなしのICRPリスク評価です。なお、ICRPは世界各国の規格基準の根拠みたいなものを提示している性格上、核開発大国の利害調整をも内包していると考えておくべきです。(情報リテラシーですよ)

2. ゴフマン

ガン死リスクは1Svあたり40%。
これは、ジョン・ゴフマン(ウラン233を発見した物理学者、故人)が提示した危険性評価。もともとは米国の核開発の中心にいた人なのですが、核実験や原発での被曝研究でその危険性を認識し、公衆の放射線防護のために尽力しました。原発を「計画的殺人者」だと云って憚らなかったため、当局からは危険人物として扱われていたとか(詳しい話は、中川保雄さん・中川慶子さんの「核の目撃者たち」参照)。

先の値切りICRPやゴフマンの基準については、中川保雄さんの「放射線被曝の歴史」(技術と人間)や小出裕章さん(京大原子炉実験所)の解説等を参考にしました。ちなみに、小出さんが危険性評価に使っているのはゴフマン基準のようです。

3. ECRR(欧州放射線リスク委員会)

ECRRは欧州議会内のワークショップで、ICRPのリスクモデルを批判する活動を続けています。たとえば、内部被曝についてICRPのモデルに別個の荷重係数を追加し、疫学的データとの整合性をとりながら、核種や線量の違いによる被曝リスクをより妥当なものになるようにしているとのこと。その結果、ECRRは、ICRPの公衆基準1ミリシーベルト(mSv)/年は1桁以上下げるべきだ(つまり、0.1mSv/年以下にせよ)と提案しています。

ECRRは、今回の東京電力福一原発による被曝影響について、その内容に鑑みガン死亡するリスクを1Svあたり60%と見積もっています。

ECRRの2010年勧告はこちら日本語試訳は美浜の会のサイトで入手できます。

以上、勧告や基準の数値を列挙しました。これらは誰でもネットで入手できますが、これらを使って放射線被曝をどう評価するのか、それが問題です。

4. 具体的には

まず覚えておかなければならないのは、上記のリスク評価は確率的な危険性を示したものであること。たとえば、100ミリシーベルト(mSv)=0.1シーベルト(Sv)の被曝なら、ガン死亡リスクは、0.5%(ICRP)、1.0%(値切りなしICRP)、4%(ゴフマン)、6%(ECRR)となります。200mSvならそれぞれ倍となり、50mSvならそれぞれ半分の値となります。

つまり、ある数字を超えれば危険、それ以下なら安全という単純な解釈はできません。しきい値(閾値)がないというのはそういうことなのです。

国の発表では、事故から1年後までの累積被曝について、約30km離れた計画避難区域で11~235mSv、50km程度離れた福島市や郡山市や伊達市でも10~21mSvと予測しています。ただし、これらは空間線量だけであり、水やミルク、食べ物等から被曝するルートは勘定に入っていません。それらの基準は国の計算では年間50mSvを前提としているので、それを加味すると60~300mSvの被曝を想定しなければなりません。この範囲いっぱいに被曝するケースは少ないかもしれませんが、恐ろしくなるような数字です。

今回、文科省が「福島のこどもたちが被爆しても許容範囲だ」と判断した20ミリシーベルト(mSv)被曝の場合、そのガン死リスクは0.1%(ICRP)、0.2%(値切りなしICRP)、0.8%(ゴフマン)、1.2%(ECRR)です。何度も繰り返しますが、これは空間線量だけなので水やミルク、食べ物からの被曝を加味するなら、その分の50mSvを上乗せすることになり、3倍強の危険度になってしまいます。

では、これらのリスクはどれくらいの危険度なのか。それを判断するために最低限知っておくべき基礎的知識を次回で紹介します(続く)。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(注)ICRPは、ガン死 5.5(全集団)、遺伝的影響 0.2(全集団)(単位は10^(-2)・Sv^(-1))としていますが、放射線防護の目的としては、1Svあたり5%を採用しています。