わたしの台所手帖

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わたしの台所手帖 119のメモ (集英社be文庫)先日たまたまTVを観ると、背が高くて姿勢のいい料理アドバイザーが出ていました。その方、アジアの料理をその国々の考え方を交えながら的確にゲストの方々に解説しています。あら、なかなか面白いことを云うな、料理というよりも文化の解説者みたいやんか等と思いながら画面を見ていると、その人が平松洋子さんであることが判明…。

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わたしの台所手帖

119のメモ 平松洋子 著 集英社be文庫

今までいろんな所で平松さんのお名前を見かけていましたが、どこにでもいるような料理評論家だと思っていたら、どうも違うみたい。先入観は禁物ですね。近所の本屋にあった本を手にとってみたら、なんとまぁ、これが面白いではないですか。

まず、第一章。自分の手の感覚を生かした調理方法がいかに優れているか、その実践例を紹介は普通のレシピ本とは明らかに趣が違っています。私はこの点にまず納得しました。正確に計量して手順よくやることも大切だけど、調理は機械操作ではありませんからね。

調味料の紹介も秀逸。最初から「自分の味を決める基準を持ちなさい」というのは、筋の通った言い分です。自分の味がない者に料理のおいしさを求めても詮無きこと。不親切そうで、一番の親切アドバイスではないでしょうか。発酵食品の勧めも平松さんの説明通りで、なぜかしら、先日紹介した「貧乏神髄」と重なるところが多いのが面白い。

この本のなかほどにいくつかレシピめいたものが出てきますが、それも「よけいなことをしない」、「何もつくりたくない時」、「飽きずに何度も作る」というテーマでの紹介が面白い。ほんまほんまや、そやねんなぁと頷きながら読み進めました。その他、台所道具のいろいろ、旅の話、くらし、うつわと話題は広がっていき、いつのまにか、台所から世界を眺めることができるような雰囲気になります。表現力と構成の妙かもしれません。上手い作りの本ですわ、これ。

ついでながら、平松さんの造語に「スタンプラリー」というのがありました。雑誌などで紹介される有名店にあれこれ出かける人たちの行動を指す言葉です。たしかに、食べ歩いてお店を探し求めていくという愉しさはありますが、その方々ははたしてお気に入りの一店を見つけることができるのか。自らの評価軸がないと、単に「行った、見た、食べた」だけに終始するコワサもあります。そのことを警告した造語と、それを書く気合いに感激です。だって、フードジャーナリストって、そういうヨイショ商売の方々ばかりですからねぇ。

さてさて、本の話に戻ります。 食べるという行為はいかなるものなのか。そんな難しいことを考えなくても、食がライフスタイルに密接していることについて異議を唱える人はいないなず。でも、そのことを忘れてしまうと、調理が単なる時間短縮の効率化であったり、珍味の探検になったりして堕落してしまいます。

食とはそんなものじゃないでしょう? 人生何日生きていけるのかわかりませんが、1日3食としても20年で22000食前後。時間のない時もあるでしょうが、大事にしたいものです。食を侮るようでは、生きている意味が薄くなる(かも)。

この本は当然bk1やアマゾン等でも買えますが、ご近所の本屋にも置いてあるでしょう。暮らしと食を考えたい方にお薦めします。とりだててエコのことを書いているわけではありませんので、無農薬とか有機栽培とかそういった方面の話題を求めている方には素っ気ないかもしれませんが、この本の内容はまさしくエコ的です。私はそう断言いたします。