最近のお気に入り

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最近、レストランやホテル・旅館の値上げが著しい。そう思いませんか。この傾向は日本だけでなく世界的で、英語圏ではグリードフレーション(Greedflation 強欲値上げ)というようです。幸い、私たち夫婦が訪れるお気に入りはこの流れと一線を画しているので有り難い。

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ここ数年、世界経済はデフレからインフレへ。モノの値段が騰がり、ロシアによるウクライナ侵略戦争でエネルギー価格も上昇。加えて日本では円安の影響もあり、電気代やガソリン代、生活必需品の高騰はご存じの通り。

そのおかげで最近、レストランやホテル旅館の値上げが著しい。コロナ禍前に比べて物価や人件費が上がっているので、二・三割アップなら理解できますが、それ以上の値上げ例も散見。コロナ禍で拡大した負債の穴埋めなのか、とりあえず利益が欲しいファンドなどの資本参加が背後にあるのか。いずれにしても客にとっては厄介な状況です。

もちろん値段の感じ方は人それぞれ。ある人にとって高い値段でも他の人には高いと感じないかもしれません。でも、物価高や人件費高騰、諸経費アップを考慮しても五割増は上げ過ぎ、十割増以上つまり二倍以上は異様です(私見です、念のため)。

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・・・と愚痴を並べるだけでは何なので、私が年に数回訪れるお気に入りを紹介しておきましょう。幸い、どこもグリードフレーションとは無縁です。お好みに合うかどうかは分かりませんが、私たち夫婦のお薦めです。

まず1つ目は、石川県・白山麓の「ふらり」。高木夫妻が営む、静かなダム湖の湖畔に佇む民家づくりの小宿です。3部屋あるのに現在は1日2組限定の宿泊なので、2つあるお風呂のうちの1つをお客1組で占有できます。食事は山の食材を使った美味しい創作料理で毎回驚くような内容。山菜料理、鮎やイワナなど川魚の焼きはもちろん、イノシシ、クマなどのジビエも(収穫時に当たれば)絶品。

8月にいただいたイワナの炭火焼き。皮はパリッ、身はふっくら、骨まで柔らかい逸品 @ふらり 

限界集落のような場所なのに、リピーター率7割以上というのがこの宿の素晴らしさの証明でしょう。ちなみに大人1人1泊2食で17000円か18000円。コロナ禍以前に比して1000円だけのアップに留めたのは、若い人にも気軽に訪れてほしいという希望を込めての値段設定とのこと。

2つ目は松本の金宇館(美ヶ原温泉)
最近何度も訪れている温泉旅館で、4代目オーナーである若夫妻のセンスを感じるモダンな宿です。百年つづく旅館を目指すという目論みは、温泉旅館の未来形かも。お食事のレヴェルも一流料亭クラス。信州ワインのトレンドや美味しさに気づいたのもこの宿のおかげです。

サクラ肉の花びら。宿の伝統を美しく表現 @金宇館 

ここも今年になって少し値上げしましたが、1泊1人あたり1000円程度に抑えました。今後のインフレ次第で再値上げがあるかもしれませんが、それでもグリードフレーションではありません。有り難いことです。

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一方、レストランといえば、20年程前からお世話になっている金沢の乙女寿司。以前はひと月前なら席が取れましたが、最近は全くダメな位、予約困難店に。でも、訪れた時に次の予約が取れるので、それで何とか押さえている状態です。季節毎に魚が変わるし、調理も少しづつ変化するし、お店の人やお客さん達とのやりとりも面白く、訪問回数50は超えますが、毎回楽しめます。

スズキ系ですが地元の通り名はアラ。ふだんはツマミの一品目に登場。@乙女寿司

肝心のお代金、おまかせで摘まみとお寿司を一通り頼んで、20年程前は1万前後、現在は二万弱。この値段で大丈夫かと毎回心配になる位の内容です(ただし蟹のシーズンだけは二万円を超えます)。なお、江戸前寿司がお好みの人にはお勧めしません(念のため)。

また、日本料理は奈良の「白 Tsukumo」さんに数年前から季節毎に訪れています。京都の日本料理が半ば定型化し観光客対応の劇場型になってきたように感じてしまう今、ここは奈良の土地柄を生かしたお料理で、サプライズもあり、毎回楽しんでいます。

初夏にいただいた紫陽花雰囲気の心太。縁のカタツムリは五条の松浦さんのマイクロ胡瓜。@白

トップクラスのレストランですから値段もそれなりですが、内容から考えれば真っ当で、以前より2割程度アップの2万円(+税)。簡単には予約がとれなくなってきたのが難点。

もう1つ奈良といえば、昨年来一押しの「ダ・テッラ」(明日香村)。農家である実家が作る野菜や小麦を使うので、地産地消どころか自産自消でしょうか。ここは2021年1月以降は値上げなしの1万円+税(ディナー)。毎回びっくりのメニューに大満足しています。今年星を獲ったことで今後は予約がとりにくくなること必至。

最近どこでも出てくるようになったタイプのサラダ。でもここのは全て自家産の野菜!@ダ・テッラ

さて京都のレストランでも値上げが進んでいます。ときどき訪れる所オルトさんは11皿のディナーが1万円+税サから13000円+税サへと3割程度、カッチャトーリさんも9000円/12000円+税サで同程度の値上げ。どちらもリーズナブルだと思いますが、最近遠出をする機会が増えたことで御無沙汰がち(残念)。

つらつらと書き綴ってきて気づくのは、小規模な、あるいは個人・家族経営な所ばかり。どこもリピーター客を重視し、値上げに慎重になっているからではないかと思う次第。大手広告代理店とは付き合いがないか少ないため、広告メディアでの露出は少ないかもしれませんが、知っている人は知っている穴場かも。

この国には美味しい所はたくさん。でも、心地良いサービスで美味しさを堪能するためには相性が合うかどうか、そこがポイント。そういうお気に入りはあなたの人生に潤いと彩りを添えてくれることでしょう。一方、グリードフレーションな宿やお店の未来は果たしてどうなるか、気になるところもありますが、私は近寄りたくありません。だってお金を使うなら、真っ当なアキナイのお店がいいし、できるなら若手が経営する宿やレストランに行きたいと思うから。