ランブロワジー その2 L’ambroisie
2010/10/15
何事もバランスが大切。お料理もそうです。いくら良い素材を使っても、塩味が強かったり味付けが濃いと素材の味が台無し。一方、あまり素材の味だけに拘ると淡い感じになり過ぎて満足感が減。また、いくつかの素材を組み合わせる場合、全体としてバランスがとれてなかったらアウト。なかなか難しい。その点、ランブロワジーは私が今まで食べたお料理の中で最高かつ完璧(パルフェ)。おかげで大満足。幸せな気分になりました。
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私たちが注文を終えた頃には席もほぼ一杯。最後のテーブルもその後30分もしないうちにお客が着席して満席状態です。人気ありますね~。日本人は私たち以外にいないようです。また、お客たちとマダムとの会話の雰囲気から、半分くらいがリピーターというか馴染み客のような感じ。まぁそれはさておき…。
さぁお食事です。お料理の前の前菜として何かのスープが出てきました。フランス語と英語でフォアグラ云々の…って説明があったのですが、もうひとつ理解できません。単なるスープではなさそうですが、見た目は普通のスープのように見えます。
軽くスプーンですくってみると、何のことはない普通のクリームスープ。味はちょっと薄め。これ何?どこがフォアグラなん?って云いたくなる感じ・・・・
でも、スプーンをさらに入れてみると、スープの下層はこってりと粘度が高く、明らかにスープではありません。
あれ、もしかして、もしかすると… 。深くすくってみると、それがフォアグラ。ペーストなのかムースなのかまではわかりませんがスープの下に沈んでいます。おまけに白トリュフまで入っていることに気づきました。それならと、スープごと混ぜこぜして口に入れると…、
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シンプルだったクリームスープがフォアグラといっしょになると、至上のフォアグラクリームスープに大変身! その最終形から逆算した塩分調整が完璧。単なるクリームスープなんて言い草は完全な誤解でした。まさにアンビリーバブルな味わいです。
彼女も上澄みのスープをスプーンで飲んで違和感を持ったような感じだったので、「ビビンバしてみたら」と薦めると、ビビンバして口に入れた途端びっくり顔。「何これ、何でこんなに美味しいのぉ~」と驚き、また口に含み、そしてまた「ウソ~~」「こんなの初めて…」と感想しきり。2人で驚きと感激を連発しながら愉しみました。
そういえば、今日のスペシャリテは白トリュフとのことでした。それで、お料理でトリュフ関係を頼んでいない客に対して、アントレでこういうサービスをしたのでしょうか。だとしたら、なかなか粋です。(後でもう一度このことに触れませう)。
それにしても、食べ方1つで評価が正反対になりそうな出し方をするなんて、きわどいですね。「今日の客はわかるかな~」なんて、シェフの密かな愉しみなのかなぁ。(写真は既にスープがある程度減った状態。最初に出てきた時は単なるクリームスープにしか見えませんでした)
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アントレのスープを飲み終わる頃、ソムリエがデミワイン白赤2本をテーブルに運んできました。お客様が注文されたのはこれこれです。お確かめ下さいとのこと。瓶のエチケットを見て、「オッケイ」と私。すると、ソムリエは彼女の方にも瓶を差し向け、「これですね」と再確認。彼は私たちが2人でワイン選びをしていたのを見ていたんですね~。気配りが細かいですね~。
このサービスに私が「ダブルチェックだね」と振り向けると、「いえ、トリプルチェックです」とソムリエ。「えっ(何それ)?」という私にソムリエは自分自身を指し、3人目は自分だというわけです。負けました(笑)。
ワインのチェックはまだ終わりません。ソムリエが抜栓して自らのグラスに少し注ぎ、香りを確かめます。顔つきからは問題なしって感じでしょうか。試飲して味もみるのかなあ、と思っていましたが、それはせず、白赤ワインを少量ずつ注いだグラス2つを持って奥にひっこみました。
ソムリエは、香りだけで味もOKと確信したのでしょうか? あるいは、客から見えない処でソムリエか、ソムリエ以外が試飲するのでしょうか? 舞台裏を見てみたいけれど、それはさすがに出来ません。
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1皿目。まず、ランゴスティーヌのFeuillantine。写真を見てもわかるように、実にすっきり美しい。彩りも暖かい。でも余分なものは一切ありません。メニューといい、ワインリストといい、ランブロワジーには余計なものはありません、という姿勢が明確です。
Feuillantine de langoustines aux grains de sesame, sauce curry
クリックすると大きな写真が出ます
Feuillantineって何でしょうね。最初は料理特有の名前かと思いましたが、そうでもなさそうです。いろいろ探していると、Feuilleというのが葉っぱのことだとわかりました。葉っぱをめくると、中にはおいしいモノが隠されているという雰囲気の演出なのでしょうか。色合いをみると、秋の枯れ葉の下においしいモノがあるという感じですね。回りのカレーソースの彩りもそう。また、緑菜はふだん草だと思いますが、その色が他の黄色系とのバランスでアクセントになっています。
お味はどうか。ランゴスチーヌとは和名でアカザエビ、手長の伊勢エビといえばそんなにはずしていないでしょう(甲殻は違うけど)。上のゴマせんべいの下には、大ぶりの身が3つごろんと入っています。素材コスト考えたら高そうですね(苦笑)。
一口食べてみると、うまいっ!の一言。
他に何と表現すればいいのでしょうか。
火の通り加減が生でもなく固ゆででもなく、ほどよい柔らかさとプリプリ感。塩味も濃くありません。むしろ薄味で、上質な鮮度の良いエビ本来の味わいです。味が少し足りないと思う人でも、ソースと合わせたり、菜といっしょにすれば完璧でしょう。エビが大きいので、食べても食べてもまだあるという感じが凄いですゾ。
これに注文した白ワインを合わせると、ああぁ、なんというマリアージュ!
思わず、ホンマに「ああぁ」って声を上げそうな位(爆笑)。ワインがエビの身の甘さを際立たせ、一方でワイン自身の味わいやアフターも強くなるんですな、これ。ソムリエのお薦めは完璧でした。
もし、これをタンニンの残る赤ワインで合わせると、おそらくエビの味を殺し、片やワインは渋くなるという不幸な結果を招くことでしょう。タンニンの角がとれた赤ならオッケイだろうけど、そんな熟成モノはとても高価なので、この手のお料理には白のムルソーやモンラッシュ系が一番。自信がなければ、私たちのようにソムリエに尋ねるのが正解です。
このお料理がここの定番であるという理由がよくわかりました。美味を超えて至福という方が当たっています。最終的に記憶に残るのはエビの味というよりも、この上ない幸福感という漠然とした感覚になってしまうのが不思議といえば不思議ですね。
1皿目のもう1つはスズキのエスカロッピーネ(薄作り?)。先のランゴスチーヌに勝るとも劣らない美味しさでした。
Escalopines de bar a L’emince d’artichaut, nage reduite au caviar golden
見た通り、白い花のようなイメージがまず印象的。スズキの切り身が花びらのように旋回状に並べられています。その下にはアンティチョークの蕾のスライスがこれまた旋回状に綺麗に重ねられています。回りはホワイトソース?にオショトラゴールド(キャビア)がたっぷり。
最初、スズキの切り身がこんなに食べられるかなと思いつつ口に入れると、なんとまぁ火の通し加減が絶妙に上手い。柔らからず固からず、ここぞというジャストな時点で止めたという感じの感触です。そして美味しい。魚特有の臭みもなく、薄味ですが味わいは豊かでしっかり。
魚のバリエーションが限られているヨーロッパではよく使われるスズキ。日本で食べると大味のものが多いのですが、この料理は別格だなと思うほどの深い味わい。これをキャビアソースと合わせると、塩加減がピッタシカンカンになって美味しさがより一層増します。キャビアなんて贅沢趣味だと思っていた私が宗旨替えをしようかなと思う位。これもまた最終形から塩加減を調整している好例でしょう。これがなぜ他のレストランではできないのかなぁ。難しいんだろうね、きっと。
美味しい美味しいとボリュームなんて全く気にならない位、どんどん食が進みます。これを2人で味わおうと、ラムロワーズ同様ここでもギャルソンにお皿を交換してもいいかと問うと、「ウィ。オフコース」。お皿交換は3つ☆最高峰でも何の問題もありませんでした。嬉しいね。おかげで、それぞれのお料理を半分コして最高の美食を2人で楽しめました。
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2皿目はお肉です。
1つはロゼール産仔羊の背肉、ニンニクのヌガティーヌ添え。添え皿にはインゲン豆煮?のようなものがついています。これも他と同様、見ての通りでストレート。サイズは大きいけど皿には無駄な演出がありません。でも添え皿は私には意味不明。
Carre d’agneau de Lozere an nougatine d’ail, etuvee de cocos frais en piperade
焼き加減の注文はミディアムだったんですが、これまた完璧でジューシー。皮を別建てでパリッと焼いているのが香り的にも食感的にもマル。いや~っ、ここまでパルフェなのも珍しい。最高の仔羊料理でした。
こういうのって赤ワインが活きるんですね~。オーダーしたChambolle- Musigny (2000年)は飲みやすいし、うまい。食事に合うという点で、イイ線いってます。収穫から既に10年でタンニンもほとんど感じさせません。お肉の味の邪魔をせず、でもしっかり個性を発揮していました。
もう1つは、ブレス産トリ胸肉、それに茄子のピューレが添えられていました。レモンバターというのはソースのことなのでしょうか。バターがきついということはなかったのでよくわかりません。
Supreme de volaille de Bresse au beurre de citron,attereau de cuisse et aubergine
こちらは柔らかい胸肉と串刺しのお肉の2種類が出されました。串の方は皮をパリッと焼いて食感を替え、ネギを添え、違った味わいを作り出しているのが売りのようです。またソースの加減もあってか、味わいに甘みを感じます。
ほのかなレモン風味のおかげで軽く感じます。ソースに凝るような肉料理がお好みという人には受けないかもしれませんが、私は好きですね、こういう軽いの。これまた赤ワインがしっかりとシンクロしてくれました。これも濃い目の赤だったら鶏肉の味を潰していたかもしれません。ワインって本当に難しい。
ただ、他の皿と比べてどうかといえば、う~~~ん難しい(苦笑)。ブレス産ブレス産ってフランスでは珍重されますが、そんなに鶏肉に違いがあるのでしょうか。そんなことを考えていると、私たちはふだんから鮮度の良い美味い鶏肉しか食べていないことにハタと気づきました。
というのも、拙宅近所においしい地鶏屋さん(*注記)があって、店の隣の養鶏場で育てたトリを毎日さばいて売ってくれますので、いつも新鮮な美味しい鶏肉が手に入るんです。日頃からそういう鶏肉を食べているので、ブレス産の鶏肉といってもさほど感動しなかったのかもしれません。まぁトリ料理に、もちょっと満足感が欲しいなぁというのが、ランブロワジーでの贅沢な愚痴です。
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お口直しになるかどうか、1つ面白い話題を提供しましょう。前菜つまりアントレの話です。ランブロワジーでは、アミューズ・グーシュの後、注文したお料理の前に前菜が1皿出てきます。これは注文するわけではありません。そのアントレのこと。
私たちの席は中央壁際でしたから、2人の視線を合わせればフロア内のテーブルを一通り見渡すことができました。すると、アントレが客によって違うことに気づいたんです。へぇ~、なぜ? 面白いなぁ。その謎解きが2人の話題になったのは云うまでもありません。
私たちのアントレがフォアグラスープだったのは触れた通り。ところが、隣のリピーターらしきご婦人グループ4人のアントレはスズキの切り身・キャビア添え。私たちが食べたスズキの薄作りを簡略ミニ版にしたような小皿です。
最初にそれを見た時、1皿を4人でシェアしたんだろうかと思ったのですが、そうではなさそうです。後で別のテーブルにも同じスズキが給仕されるのを見た瞬間、あぁ、あれはアントレとして出されているんだなというのがわかりました。でも、私達の前のテーブルのアントレは私たちと同じフォアグラスープ。あら、アントレは客によって違うみたい。
加えて、最後にやってきたカップルが入り口付近の席についた後、アミューズの後出されたのは定番らしきサーモンムース。あれれ、じゃ3つのアントレがあるってこと? う~~~ん、わからんなぁ。
連れ合いの推察はこうです。今日のスペシャリテは白トリュフ料理。あらかた客のオーダーを受け付けた段階でトリュフ料理がどれぐらい出るのか店側は把握できる。そこで、トリュフ料理を頼んでいない客に対しては、フォアグラ+トリュフのスープをアントレにしよう。スズキについても客のオーダー数から余り具合が決まる。さばいたスズキを残すのも何だし、せっかくの定番だからスズキを注文しない客のアントレにしよう……というのでは?
最後の客がサーモンムースだったのは、トリュフやスズキの余りがなくなり、残念ながらアントレに反映されなかったのかも? もしこれが正解なら、ランブロワジーの配慮に脱帽です。客はここの定番の片鱗をアントレで楽しめるというわけですから、ね。
まぁ如何なる理由でも私たちは絶品フォアグラスープを愉しむことができたわけですから、素直に感謝しましょう。
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さてさて、あれやこれや夫婦でいろんなことを話しながら、美味しいお料理を食べていると三時間近く経過していました。あっという間ですね。既にお腹いっぱい。でも、あまりに美味しそうだったのでチーズを少し頼んで、サイズが大きなデザートはパスし、コーヒーでお仕舞いにしました。
すると、若いギャルソンが「なぜデザート食べないの?」と問いかけ、日本語で「スコシ、スコシ、オイシイ、オイシイ」と誘いかけてきます。あまりの勧め上手に、彼女は危うく注文しそうになっていました。
日本人の客がよく来るせいでしょうか、お店の人たちは「スズキ」「ウシ」等、片言の日本語単語やフレーズをうまく会話に盛り込みます。そのことで、こちらの気分を寛がせ、親近感を増し、お食事本来の美味しさをも一層高めていました。やはりフロアサービスは大事です。ル・プレ・カトランもそうでしたが、お料理の良さは当然ながら、客が心地良く食事ができる雰囲気づくりってのがレストランの決め手かなぁと改めて思う次第です。
食事の終わり頃、マダムがテーブルに挨拶に来られたので、2人で「美味しかった、ありがとう」というのですが、それ以上会話が続かない。こちらはフランス語が使えず、英語での表現力も乏しいし、洒落た話題を持ち出すことができません。マダムもちょっと困ってしまったようでしたが、私のGRD3に気づき「お写真をとりましょう」とシャッターを押してくれました。会話途切れでアウトかなと思った矢先の、マダムの臨機応変さに内心さすがだなぁと思うことしきり。2枚とってもらい、1枚はピンぼけだったんですが、かえってそれがイイ。記念になりました。記念といえば、いただいたメニューにシェフのパコー氏のサインが入っていたのには驚きました。
それにしてもランブロワジーって、お料理、お酒、サービス、お店の雰囲気すべてにおいて完璧。こういう場所が世の中にあるんですねぇ。ホンマ生きていて良かったなぁと思う次第です。3つ☆レストランをたくさん経験したわけでもないし僭越ですが、もし、あと1回だけ3つ☆レストランに行ってもよいと神様に云われたら、今の私なら躊躇なくランブロワジーを選びます。そのためにも、次はフランス語を勉強しないとアカンなぁ。
(*注記)
その店とは、かしわの川中。
その川中さんに聞いたところ、ブレス産のトリは非常に厳しい規格に沿ってサイズも味も同じになるように飼育されているそうです。ただ、鶏肉それ自体はソースに合わせることを前提にしているらしく、トリらしい味わいの濃さというのは少ないかもしれない、とのこと。