ランブロワジー その1 L’ambroisie

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bozyu15年前のことだったか、モリエール劇場近くのホテルに滞在した時のこと。受付の女性とレストラン談義で盛り上がったことがありました。聞けば、「フランス人でも3つ☆レストランって一生に1度行くか行かないか位」との話。なるほどなと思いつつ、「どこか行ったことある?」と聞くと「ない」。「行くとしたらどこに行きたい?」という問いには、間髪入れず「ランブロワジー!」。パリジェンヌにとっても憧れのレストランなんだそうです。
そんな話を聞いたものですから、過去に何度も席をとろうとしましたが、すべてアウト。今回カード会社経由でお願いしたら、幸運にもOK。ということで、今回のフランス旅行最後の晩はランブロワジー。結婚25周年を飾るパルフェな晩餐になりました。(写真はランブロワジーのあるボージュ広場の夕景)

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ミシュランを絶対視するわけではありませんけど、ランブロワジーの評価はピカイチです。栄枯盛衰が激しいレストラン業界、それも激戦区のパリで20年以上3つ☆をキープしているのはランブロワジーだけ。これは既に紹介した通り。この事実が、このお店の存在をひときわ輝かせています。

それだけではありません。他の3つ☆レストランの中には、観光商売に手を出したり、日本の会社に名義貸ししたり、海外の食産業と資本提携したりと商売っ気ぷんぷんの所や、3つ☆になったら席数を無理矢理増やしたり、急に値段を上げたりするレストランもある位。そんな中で、ランブロワジーはわが道を行くという感じでレストラン一直線。その潔さというか、哲学が素晴らしい。

そのランブロワジー、シェフがそろそろ引退するかもという噂があり、お料理についてもあれこれ喧しい話があるようですが、はたして実態はどうなのか。

予約は20時。ちょうどくらいの時間にお店に入ると、受付の女性やギャルソンたちが私達に「ボンソワー、メダム」「ボンソワー、ムッシュ」と次々に声をかけてくれます。開店早々の客だからでしょうか、挨拶シャワーの後、テーブルへ。

レストランは2フロア。奥と手前側のフロアに別れています。私たちは手前側の壁際中央の丸テーブルに案内されました。おっ、イイ席もらったねと内心ニヤリ。私たちが席に着くのと同じくらいに、紳士たちやカップル数組が続々と奥へ入っていきます。何かの集まりなのかなぁ。奥側は開店直後にほとんど埋まった模様です。

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レストランの入り口から始まる立派な構え、重厚だけど味のある壁のタペストリーにシックな調度品、シャンデリアも凄く立派なんだけどド派手に見えない不思議な魅力、加えて大ぶりで華麗な生け花まで店の一部になっています。要するに豪華な内装がしっくり馴染んでいるのです。なぜ?どうして心地良いんだろう? 何だかどこかで見たような雰囲気だなぁ等と考えていると、写真を撮ることを忘れていました(だから前半の写真なし)。

まずはアペリティフ。
ランブロワジーの食前酒はルイ・ローデレールのシャンパンが定番のようです。開店早々だったこともあり、ソムリエはテーブルにボトルを持ってきてラベルを見せながら抜栓。音無し開栓は完璧、そしてフルートグラスへ多めに注いでくれました。そんな対応をみながら、今日は当たりかなぁと期待が膨らみます。

結婚25周年おめでとうと自分らで祝い、シャンパンで乾杯。1口大のアミューズブーシュが2つ出てきましたが、すぐペロリで写真を撮る間もなし。カルトを持ってきたギャルソンが、今日のスペシャリテはイタリアからちょうど届いた白トリュフと卵のなんやらかんやら料理ですと付け加えます。初物の白トリュフって高そうだねぇと聞き流しながら、私たちはメニュー選びに集中。

ここのお料理はアラカルトのみ。それも14品+スペシャリテ1品の15品のみ。そのリストはA4サイズにデザート込みですっきり収まるくらいのシンプルさ。ごちゃごちゃあれこれ提示されるより、美味しい自信作だけを示してくれるのがスマートです。

ほぼ予習通りのリストだったので、これまた2人で予定通りの注文をすることにしました。1皿目は、ランゴスティーヌとスズキ。2皿目は仔羊とブレス産のトリ。デザートはまた後でね、ということでその時はパス。今回は簡単でしたね~。

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次はワインです。ソムリエから手渡されたワインリストに軽い驚き。ページ数は20ページあるかないか、軽くて薄い。他の店で見かけるような、皮表紙の重たいヤツじゃない。中を覗くと、ページ数の割にはそれなりにしっかりリストアップされ、白赤ともにリーズナブルなお値段がずらり。もちろん、著名銘柄も載っていますが、絶対数が少ないこともあり、選びやすそう。儀式的ではない実質的ワインリストに、これまたお店の姿勢が垣間見えるようですね。

その白ワインの中に、オリビエ・ルフレーヴの名前を発見。ルフレーヴ本家の親戚筋に当たりますが、Puligny-Montrachetに試飲可能なレストランを開いているドメーヌです。今回ボーヌ滞在中に行こうか行くまいか悩んで結局やめてしまいましたが、そこのワインが数本リストアップされていました。ふ~~ん、オリビエさんとこ、ランブロワジーで使われているんだなぁと感心しきり。

でも、料理に合わせて私たち2人で白赤フル2本飲むのはきついかなぁ。そう悩んでいると、ソムリエがテーブルへやってきて、リストの後ろの方にデミ(ハーフ)を集めたリストが載ってますよと教えてくれました。めくってみると、たしかに白や赤のデミがしっかりした作り手の名前とともに列記されています。有り難い。

何かお薦めは?とこちらが問いかけると、ソムリエは「ちょっとお待ち下さい」とキッチン方面へ。あんれ~どこ行くの?と思いましたが、しばらくして戻ってくると、お客様のお選びになったお料理でしたら、1皿目は白のこれ、2皿目のお肉は赤のこれでどうでしょうか、と2つデミを選んでくれました。注文料理の内容を確認してきたみたいですね。定型儀式かもしれませんが、細かい対応に少し驚き、安心するとともに感心しました。

選んだワインは以下の通り。

Puligny montrachet 2005 O. Leflaive    ・・・・・ 70€ (デミ)
Chambolle- Musigny 1er Cru 2000 Magnien ・・・・・ 85€ (デミ)

そうなんです! ソムリエが提案したくれた白とはオリビエ・ルフレーヴのもの。こちらの念力が通じたのかしらん。何か宿命?!を感じました私(苦笑)。即OKです。

artParis赤の方はMagnien。この作り手のを飲んだことがなかったので、ソムリエに「This wine will make me happy?」と問うと、一瞬変なこと云うなぁ…という顔をした後、すぐに真顔で「ウィ、なんたらかんたら…」とフランス語。大丈夫そうな雰囲気だったので、「I will trust you !」で決定。対する応えは「まかしといて」という感じだったような…(フランス語だったんで、よ~わからん)。

結果的に白も赤もブルゴーニュ。今回の旅行の締めくくりディナーにふさわしい。私たちが昨日までボーヌにいたことなんて、ソムリエ氏は知らないはずなんですがね~。まぁブルゴーニュワインがランブロワジーのお食事に合うということなんでしょう、きっと。

とかなんとかでお料理とワインが決まり、やっと食事へ。食事前の雰囲気も十分盛り上がってきましたが、この後、アンビリーバブルな素晴らしきディナーが待っているとは、まだこの段階ではわからない私たちでした(写真はボージュ広場の画廊ショーウインドウ)。