美味の後ろにあるのは・・・

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連休後半に映画を観るため京都へ。タイトルは『ウィ、シェフ!』。名前からわかるように、フランスの料理・レストランに関するもの。美味しい映像の後ろに移民問題も絡まっており、予想以上に素晴らしい映画でした。また映画のパンフレットに見覚えのあるレストランが出てきたので、フランスの最新レストラン事情を調べてみると、興味深いことがいろいろ。面白い1日となりました。

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昔は京都にもたくさんあった映画館。時代の流れで1つ減り2つ減り、いつのまにか小さいのを含めて10館以下。今回出かけたアップリンク京都は2020年4月に烏丸御池の新風館地下にできた新しい映画館ですが、コロナ禍で大変だったことでしょう。でも、先週5日は上の新風館とともに賑やかでした。

さて、映画の題名は『ウィ、シェフ!』ですが、原題はLa Brigade、日本語でいえば小隊。料理はチームで作るという意味を込めているのですが、それは観てのお楽しみ。映画をひと言でいえば、未成年移民の就学・就業をめぐるフランスの社会問題を縦糸に、料理の美味しさ楽しさを横糸に織り込んだ社会派コメディ。カトリーヌ・グロージャンさんという実在の女性シェフがモデルだそうです。

フランスの移民制度では未成年のうちに(18才になる前に)就学するか職業適性能力資格を取得できたらフランスの居住資格を得られる、というのがあり、映画では移民の青少年たちがその資格のために調理師を目指すという内容になっています。

映画で未成年移民を演じているのは”本物の”移民の青少年たち。映画出演に応募してきた実際の移民の青少年300人以上に対して、それぞれの生い立ちやフランスに辿りついた経緯をインタビューして録画。ルイ・ジュリアン=プティ監督が300時間以上の録画を見た上で、スクリーンテストを経て最終的に40人を採用。採用されなかった人たちもエキストラとして映画に出演しているそうです。

興味深いことに、移民の青少年たちは映画のアウトラインの説明は受けたものの、台本は渡されなかったらしい。女性シェフ役のオドレイ・ラミーや施設長役のフランソワ・クリュゼ(「最強の二人」で有名)などが未成年移民たちと話し合ったり一緒に作業したりする中でお互いへの理解を深め、移民の青少年たちから自然な演技を引き出したとのこと。

半ば映画、半ばドキュメンタリータッチの雰囲気で、社会派映画なのに重過ぎないデキになっていて、さすがフランス映画というべきか。一方で、フランスの人権意識の奥深さと、どこかで区切りを付けざるを得ない社会制度との2面性に食い込んだ内容に考えさせられること多々。

料理に関するおまけ。主人公の女性シェフが作るパイプオルガンのような美味しそうな料理はパリのレストラン、アピシウスの実在の料理らしい。映画のパンフレットにミシュラン1つ星と説明あり、シェフの名前がマチュー・パコーと知って尚びっくり。ランブロワジーのベルナール・パコーさんの息子のマチューさんじゃないですか!

私たち夫婦がランブロワジーを訪れた2010年にいただいたシェフのサインにあるように、当時はオーナーシェフのベルナールさんと息子のマチューさんのダブルシェフでした。マチューさんはその後独立して2017年にアピシウスを譲り受け(この時点で☆なし)、現在は☆1つになっています。

映画の女性シェフ役のオドレイ・ラミーさんが役作りのために修行したレストランはそのアピシウスとディヴェレックとのこと。後者は知らないな〜と思っていたら、そこもマチューさんが経営権を取得しているとのこと。

映画の中にはマチューさん本人だけでなく、ギィ・サヴォアさんも出てくるし、映画の最後の最後で移民少年の一人の写真の下に「現在ギィ・サヴォアで修行中」とあったりで、フランス料理に関心がある者にとっては唸ってしまうデキになっている所もマル。

最後にそのGuy Savoy、私たち夫婦が訪れたのは2つ☆時代の1997年秋。今でも鮮明に記憶が蘇るくらい印象的で美味しい経験でした。その後2002年に3つ☆になり21年間キープ。今年☆を2つに落とされましたが、また3つに返り咲くと宣言しているらしい。☆の数に関係なく、ここは素晴らしい(はず)! パリに行く機会があれば再訪したいレストランです。