蟠りや軋轢を解くオイラーの公式

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2月12日松本市民芸術館で『博士の愛した数式』を観劇。同名の映画は観たことがあり、演劇はどうかと思っていたら、原作のエッセンスを抽出した演出で、俳優の演技も素晴らしく、映画とは別モノに仕上がっていて感激しました。こんな素晴らしい舞台だったら年に何回か観たいものです、ホンマ。

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この国で文化都市といえば何処か。勝手解釈でいえば金沢や松本。というのも、ストレートに文化の香りがするのから。

その松本にある市民芸術館。当初はお金のかかる施設に対して建設反対運動もあったそうですが、20年後の今からすれば、有ると無いとでは大違い。日本が誇るサイトウキネンのオペラやコンサートもここだし、一時的なオリンピック関連施設とは比べようもないくらいの価値があります。

その仕掛け人だった串田和美さん(芸術監督 元館長)が今年3月に引退するということで、最後に用意したのが『博士の愛した数式』。原作は小川洋子さんの小説『博士の愛した数式』で、寺尾聰さん深津絵里さんなどの出演で映画にもなったので知っている方も多いのでは。

主人公は交通事故で脳に障害を負い、記憶が80分しかもたない数学博士。その博士の義姉や家事手伝いの女性とその息子が織りなすストーリーですが、友愛数や完全数など自然数をめぐる数学用語がプロットに大きく関係するところが原作の巧みなところ。当日配布のパンフレットに数学用語の解説があったのは観客への配慮で、数学オタクでなくても楽しめるところがマルです。

詳しいストーリーは省くとして、こちらの印象について。同名の映画は2006年だったか2007年だったか、DVDで観ました。映画の方はやや冗長な感じだったので、舞台に大きな期待はしていなかったのですが、今回の演劇は最初から最後までグイグイと引き込まれる展開で驚きました。実に巧みな演出でした。

帰宅後原作を読み、くだんの映画を見直してみると、映画は原作に沿うように作られており、舞台は内容のエッセンスを再構成しているのがよくわかります。つまり、舞台が良いと思ったのは脚本演出の違いではないかという結論になります。

演劇の脚本・演出は加藤拓也さん。ライブのBGMギター演奏や照明や場面展開の妙・・・。低予算を逆手に取ったクリーンヒットというべきか。ともかく素晴らしいデキで、知らず知らず話の中身に没入していました。博士の周囲の人たちのわだかまりや衝突を解いたのがオイラーの公式だったというのが、この話のクライマックスですが、そのシーンの作り方もなかなかで、ともかくイイ舞台でした。

ところで完全数とは自身を除く約数の和がその数になるという面白い数のことですが、その完全数の496を名前にしたワイナリーが長野県東御市にあります。実は3月に、ある旅館でたまたま飲む機会があり、その味わいに感激した次第(後日触れます)。ちょうど2月に『博士の愛した数式』を観た後だったので、これも何かの縁と思うところです。