「年収6割でも週休4日」という生き方

.Books&DVD…

「年収6割でも週休4日」という生き方先日池田信夫さんの「希望を捨てる勇気」を取り上げました。これは決して後ろ向きの暗い話ではなく、バラ色の未来を想定せずに逞しく生きていこうというメッセージですが、世間ではいまだに右肩上がりの成長という幻想を捨てきれないのが実情でしょう。
今回紹介するトッテンさんの本は右肩上がりどころか、大きなマイナスがやってくることに備えよう、と唱えています。著者の言い分はストレートで明快です。

・・・・・・・

ビル・トッテンさんはアシストという業務用ソフト会社を興した人。911以降のゴタゴタで「アメリカ国家安全保障局のブラックリストに載った」ことに唖然とし日本国籍を取得、米国にサヨナラしてしまったそうです。びっくりしますね〜。

私も何冊か著者の本を読んだことがありますが、氏は一貫して米国の強欲資本主義を批判してきています。さて、今回のも一連の批判に繋がるものですが、対象が米国というよりも、今後の日本経済に対処する方法を主に展開しているのが新鮮です。

まず、いろいろな理由から現在の日本のGDP約500兆円は300兆円くらいに大幅縮小すると予想。でも、それは1984年のGDPと同じで悲観する必要はない。労働者の収入でいえば、現在の6割は1979年当時くらいだから、これまた悲観する必要はない、とのこと。

そこから、今後どうしたら良いのかという話になっていくのですが、この本のキモは著者が社員に送った2008年8月7日のメール。

曰く、自分の会社ではけっしてリストラはしない。でもこの方針を今まで守れたのはラッキーだった。今後1930年代世界を襲ったような恐慌がないとも限らない。その時でもリストラはしないが、給与やボーナスは削減しなければならなくなるだろう。だから、社員は今までよりずっと少ない収入で暮らす準備を始めてください。会社はそのための援助を惜しみません・・・・等々。

この前後からサブプライム危機が幕を開け、リーマンショックに繋がっていったのですから、トッテンさんの「読み」は的確でした(でも私思うに、一連の事件は普通の白鳥であって、決してブラックスワンではありません。そういう「判断」をする人が少なかったのが問題なのです)。

さて、米国から日本にやってきた著者曰く、以前の日本人は「勤勉で堅実」だったのが、その良さがバブル期以降どんどん失われていったとのこと。本当にそうかどうかは検証を要するところがありますが、終身雇用制度や年功序列制が日本に固有のものであったという見解はいろいろな研究によると事実とは異なります。でも、だからといってこの本の見解を覆すようなものではありません。

考えてみれば、今の経営は人をコストとしてしか見ません(人件費っていうでしょ?)。だから、経営に失敗するとすぐにリストラと称して首切りしたり、継続雇用の心配のない非正社員の雇用に動くのが普通です。でも、トッテンさんは、人はコストではない、資産だと主張します。だからこそ、「けっしてリストラしない」という話が出てくるわけ。世の経営者には是非トッテンさんのこの本を読んで欲しいものですね。

蛇足:
この本の中でも登場する「日本銀行の株主」の話。日銀は株式会社ですから、証券市場でも取引されています(日銀法での制約はあり)。でも、その株主は日本国が55%で、残りは一切表に出ていません。いったい誰が日銀株を持っているのか? 隠されているのは何故か?公開すると何かマズイことでもあるのか? トッテンさんはそこに言及し、主権在民なのかと疑問を呈しています。日銀が創設された明治時代、国の資金源だったのが英米富裕層だったことを考えるなら、何かしらエゲツなくオソロシイものを感じるのは私だけではないはず。