徹底抗戦

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徹底抗戦フォンタナの「空間概念」という作品をご存じ? 20数年前大原美術館で初めて見た時から妙に引っかかりを感じていたのですが、ホリエモンの新刊表紙を見て、やっとその意味らしきものが見えてきました。

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フォンタナの話はさておき、まず本の紹介から。

堀江貴文、通称ホリエモン。元ライブドア経営者。インターネットバブルと新興市場バブルで名を上げ、メディアや野球チーム買収で世間を騒がせ、そして広島6区から国政選挙に立候補&落選。その後証券取引法違反で逮捕、地裁は実刑判決、高裁棄却、現在最高裁審理中・・・。簡単に書けば、こんなところでしょうか。事件の顛末記はいくつかありますが、これは渦中の本人が書いた一種の暴露本。

もし彼の言い分が本当なら、この事件は報道されたものとかなり話が違う。メディアでは、守銭奴ホリエモンによるエグイ株価つり上げやインサイダー取引を問題にしていました。でもホリエモンは宇宙開発を夢見る、ある意味こどものような無邪気な人物であり、金銭的におかしなことを行っていたのは宮内らであったこと、これは裁判でもほぼ認定されているらしい。

だいいち、時価総額を増やすことは悪ではないし、M&Aで会社を大きくするのもごく普通の営利行為。ライブドアの行ったことが犯罪というなら、日本の大企業の多く、いや世界中の企業の責任も問わねばなりません。そんなことを主張する人は最初の頃は数人いましたが、メディアの大声の中でいつのまにか消え去ってしまいました。

ホリエモンにも言い分ありで、この本はその思いを熱く綴ったものとなっています。また、事件の渦中で自殺?したエイチ・エス証券の野口某については「逆臣に近い」とまで書いていたり、SBIの北尾某の醜悪さや(この人物は別の本でもヤクザ絡みの株価操作で名前が登場)、政治家・亀井静香の逞しさなど、彼でなければ書けない暴露が連発し、一読の価値あり。

ところで、この事件に登場するニッポン放送は日経連が反共対策で作った御用放送局。一方、文化放送は聖パウロ協会の資金で作ったもの。そのジョイントベンチャーがフジテレビ・・・と本で指摘されていますが、これこそが今回の事件の真相や背景を象徴しているのではないかと思いたくなります。

メディアの報道が中立でもなんでもないことは皆さん知っての通り。ホリエモンを血祭りにしたのは単なる視聴率稼ぎだったのか? それとも何か別の意図があったのか? そんなことを考えながら読むと、この本は実に面白い。お薦め。

ということで、やっとフォンタナ。(右は「大原美術館の120選」にある件の作品)

この作品、紙を数条切り裂いただけで「空間概念」。こりゃいったい何だ! と呆れるとともに何か心のどこかに引っかかり。でもその訳はわからない。もどかしい思いをしたのが第一印象。訝しげな思いを共有する連れ合いと話し合っても一向に埒があきません。

でもホリエモンの新刊本の表紙のデザインが似ていたことで、フォンタナを思い出しながら、ふとあることに気づきました。それはこうです。

私たちは三次元の空間に暮らしてします。でも、空気を感じることはできません。まぁ海に潜るとか宇宙空間に飛び出すと空気や酸素の存在の大きさに感じ入るのでしょうけど、ふだんの生活では関係なし。空間の奥行きも自分自身と対象との距離感で掴むことができるだけで、空間の絶対的奥行きどころか、存在そのものを実感として感じることは日常的にまずありません。

そんな空間ですが、何かキズをつけてみたらどうでしょうか? キズが見えるのなら、そこに何か「存る」ことがわかります。

ああそうなのか! フォンタナは鋭利な刃物で紙を切り裂くことで「空間を認識できる」ことを示したのではないか? そう考えると、なぜ彼が「空間概念」、Spatial Concept と名付けたのか、何かわかるような気がしてきました。

ホリエモンがやったことの是非は横におくと、彼のやったことは常識だらけの世間にキズをつけたような行為だと考えることもできます。表紙デザインの装丁を行った人の意図がそれをシンボライズしたのかどうか。そこは私にはわかりません。わかりませんけど、フォンタナの「空間概念」を模したデザインはある意味で本の内容にピッタリ。おかげで、私の長年の疑問の1つも何らかの解釈に辿り着きました。そういう意味でも、私はこの本に感謝。