直島時間

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今年の夏は瀬戸内海へ。一番の目的地は直島のベネッセハウス。ベネッセの名を冠したミュージアムの内外には草間彌生や杉本博司、あるいはジェニファー・バートレット、柳幸典、須田悦弘などなどのアートがあります(敬称略)。とりわけ特筆すべきはミュージアムそのものに泊まれること。誰もいない時間帯に1人自由気ままに鑑賞できる楽しさはとても面白く、まるで自分の家で美術品に囲まれているかのような錯覚を感じてしまいます。(追記)聞鳥庵はヴェルサイユにも展示されていました。

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異次元というか、パラレルワールドの中に紛れ込んだような不思議な経験をしたことはありませんか。今回ベネッセミュージアムに泊まり、日頃の喧噪から離れ日常感覚とは違う、いわば直島時間の流れに身を置き、とても心地よく感じたのは得難い思い出になりました。

ご存じのように、直島はまるで島全体が美術館のようです。地中美術館やベネッセハウスは現代アートを中心にいろいろ。また現地と一緒に取り組んでいる「家プロジェクト」等々、見どころ多しで1日ではとてもコンプリートできそうにありません。

一番ポピュラーなのは草間彌生さんのカボチャでしょうが、作品数でいえば杉本博司さん。約三十年前にいろいろな作家に呼びかけた中から展示しているらしいのですが、当時まだ杉本さんの名前がそれほど有名ではなかった頃なので、ベネッセの福武オーナーが目利きだったということなのか、任せたキュレーターなりアートディレクターが優秀だったということなのか。

直島に草間さんのカボチャは2つ。こちらはベネッセパークの浜辺にあるもの。

面白いのはベネッセハウスには宿泊施設が併設されており、数々のアート作品に囲まれて泊まることができます。これがいわく言い難く素晴らしい。早朝1人で自由気ままに館内を歩き廻りながら、その楽しさを実感したところです。

現代アートはわかりにくい、そういう人が多いのですが、それはわかりやすさを求めるから。アートが時間と空間を超えて残るものなら、私たち個人のありきたりな理解を超越しています。せめてできることといえば、自身の琴線に触れたかどうか。そこらで判断すればいいだけ。市場価格に目が眩んでしまうと道を間違います(笑)。

一般に日本の美術館は企画展型の展示ですが、ここは常設中心。それがなんとも潔い。企画展では1つ2つ興味を惹くものがあればまぁ満足というところでも、ベネッセの常設アートは1点1点が濃く、面白いと思ったのが多く個人的に大満足。

杉本さんの写真は美術館の内外にあります。行った人だけのお楽しみ。

杉本さんの写真には写真や絵画を超えた魅力を感じることができたし、柳孝典さんの作品やジェニファー・バートレットさんの作品の楽しさ、そして須田悦弘さんの「雑草」には驚きを禁じ得ませんでした(素晴らしい!)。

また、ベネッセハウスに泊まると特典で毎日ミュージアムの見学案内ツアーがついてきます(参加自由)。これが秀逸。私たちが訪れた日の案内人は猪原英明氏(ベネッセ)。作品の背景や経緯だけでなく、そのまま観ていたら気づかない面白さを知ることができました(感謝)。

コンクリートの隙間から草? これは須田さんの作品。説明されなければ気づかなかった。

もう1つ。ベネッセパークの庭に出ると、杉本博司さんのガラスの茶室(聞鳥庵)に再会。昨年京セラ美術館の庭にあった、あの茶室です。最新号の婦人画報にこの茶室は「移設工事中」とありましたが、聞けば既に3ヶ月前にここへ持ってきたらしい。予想していなかったこともあって、びっくりしましたね〜。

ヴェネチア、ヴェルサイユ、京都、そして直島へやってきたガラスの茶室。

これらアートとともに過ごした3日間は、日常とは全く違う異質な時間の流れに身を置いたかのようで、それが一番の痛快さであり思い出となった次第。また出かけたいものです。