安全性の考え方

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武谷三男編  岩波新書644  1967.5.20

 この本が出版されてから、もう36年にもなりました。今私の手元にある本は2冊目。1冊目は学生時代に買ったのですが、下宿が隣家から延焼の火事にあって燃えてしまったので、すぐにまた買い求めました。(推薦本紹介第二弾です)


 この本は、日用品から薬、労働災害、水俣病や大気汚染、そして原子力などまで網羅しています。それだけではありません。加害者の手口や法律の限界、そして住民の持つべき哲学にまで迫っていきます。

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 おまけに、名文句、名フレーズでいっぱいです。たとえば、「水俣病」の章には、公害に第三者の立場や中間の立場はないというのがあります。私にとって衝撃的なフレーズでした。中立というのは、被害者側からみると加害者と同じだからという説明ですが、その通りですね。よく、自分は中立だと称しておかしな議論をする人を見かけると、いつも、このフレーズを思い出します。
 また、「加害者と数字」の章には、数字の素性に眼をつけろとか、五体で確かめろとか、得られた結果が現実に適合するかどうかを観察せよ等という下りが出てきますが、これらは非常に役に立ちました。「原因不明のからくり」の章では、不明であるものは有害だと看過していますし、最後の「安全性の哲学」で展開された内容も、現代の「予防原則」の考え方に繋がっています。思えば、この本から、私は実にたくさんの考え方の基本を頂戴したようなものです。

 さて、この本の視点や考え方は、出版から36年経過した現代において当たり前になったでしょうか。残念ながら、そうとは思えません。環境問題のポピュラー化により、かえって、現在「市民派」とか「住民運動」を担っている人たちの中に、無責任な迷走ぶりや運動内容の質的低下が見られることが多くなってきたのではないかと思うことが度々です。だからこそ、この本の中味の秀逸さは、輝きを増しているというべきところでしょう。

 環境問題にこれから取り組む人、既に関わっているがまだ読んでいない人は是非読んでみて下さい。そして、手元に置いて下さい。きっといつか、この本が役に立つ時がくるでしょう。環境問題で困った時には是非紐解いてみて下さい。お薦め。