フレミング ペンジアス ダーウィン

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今回はオフターゲットとパラダイムシフトの話。科学の発見とは好奇心の賜物。科学的証拠がない等と云っていたら、大事なものを見落とすでしょうし、たとえばフレミング、ペンジアス&ウィルソンの発見は登場しなかったかもしれません。また、過去の業績に縛られていたらダーウィンの進化論は生まれませんでした。

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まず取り上げるフレミングとは、ペニシリンを発見したアレクサンダー・フレミング、左手の法則のフレミングではありません。

およそ100年前に見つかったペニシリンは彼がクシャミをしたせいでコンタミ(汚染)を起こし、おまけにそれを掃除の最中に見つけたアオカビからとか、云われています。つまり、正規の手続きに沿って段取りよく見つけたわけではなく、偶然の発見だったというわけ(セレンディピティ)。

面白いのはフレミング自身が偶然に見つけたものの重要性に最初は気づかず、正規の手続きによる発見ではなかったことで自信喪失。おまけに論文書いて発表したら、当時の医学界はそれを受け入れなかったため、その後の研究発展が妨げられたというのです。

数え切れないくらいに私たちの命を救ってきた抗生物質ペニシリン、今でこそ、その効果は誰もが認めるものですが、そんな偉大な発見でも最初は発見者ですら半信半疑。関連学会もその価値を理解できず、だったのが興味深い。

2つ目はペンジアス&ウィルソン。この2人はあまり知られていないかもしれませんが、ビッグバン理論の科学的根拠となった発見をした天文学者です。

約半世紀前、天体電波の研究を行っていた2人は測定を邪魔するノイズに悩まされ、アンテナにこびり付いた鳥の糞掃除まで行ったそうな。でも、ノイズは消えない。なぜだと考えたあげく、そのノイズこそ意味のある情報ではないかと気づき、ビッグバン仮説を理論にまで引き上げる宇宙背景電磁波(Cosmic Background microwave)の発見になったのです。

フレミングとペンジアス&ウィルソンの発見はいわばオフターゲット。つまり彼らが見つけたのは、最初に探していたものではなく、目的外のモノでした。もし彼らが手続き重視な官僚主義的発想の研究者だったら、おそらく歴史に残る画期的な発見はなかったかもしれません。

一般に私たちは過去の規範(パラダイム)に縛られ、新しいものを見つけることが難しいという特性があります。もし見つけたとしても、それが自身の権益や名誉を減じるものなら、尚更なかったことにしたいという後ろ向きの心理が働くかもしれません。ダーウィンに抵抗した当時の学会もそうです。

ダーウィンが進化論を発表した時、当時のリンネ学会(分類学博物学の学会)はその意味を全く理解できず、その年のまとめで学会会長は「衝撃を受けるような発見はなかった」としたくらいです。関連学会はそれまでの実績と権威があるが故に従来の考えを変えるのが難しいというわけでしょう(パラダイムシフトができない)。

以上、これら3者の話はすべてタレブの「ブラックスワン」からの抜き取り(11章、翻訳版は下巻の最初)に私の勝手な説明をつけました。

これらの教訓は何か。オフターゲットを軽視するな、可能性が少しでもある発見や見識は一度有用性を確認しよう、大切なのは好奇心、ということ。もちろんハズレの方が圧倒的に多いでしょうが、アタリがあっても検証しなければあるかどうかもわかりません。

科学の発見とは並み並みならぬ好奇心を持った者の上に舞い降りるのではないでしょうか。先日来の、BCG接種がCOVID-19に効果ありやなしやという件でいえば、好奇心をなくした者がいう科学的根拠が云々等という後ろ向きの発言には要注意。官僚主義的権威に従っていては、決して21世紀のフレミングやダーウィンは生まれません。

・・・ということで、他人任せながらBCG接種の有用性の検証を待っているところです(誰となく)。