カニという道楽

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カニその二。前回は香箱の話でしたが、今回は本。
先月蟹について是非紹介したくなるほどの、素晴らしい本が出ました。タイトルは「カニという道楽 ズワイガニと日本人の物語」。この本を読むと、私たちがズワイカニを楽しむようになったのは1970年代以降、まだ50年くらいの歴史しかありません。それがどうやって現在のカニ道楽に繋がっていったのか等々、興味深いことが本の中に詰まっています。

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毎年11月になると日本海側ではカニ漁が解禁され、北陸から山陰までカニカニカニで賑います。そんな風物詩のような、今では当たり前のようになった風景はいつ頃からなのか。その契機になったのは何か。そう問われて、はっきり知っている人は少ないのではないでしょうか。私も知りませんでした。

カニといってもズワイガニだけではなく、毛ガニやタラバガニ、あるいはワタリガニ等もあります。中華圏で有名な上海ガニはモクズガニですから毛ガニの一種。またタラバは分類学上、蟹ではなくヤドカリの一種です(足の数が違う)。・・・という蘊蓄は別にして、紹介の本で取り上げるのはズワイ蟹です。

本を読むとカニに関するいろんなことがわかってきます。たとえば、1960年代まで水揚げ地やその近郊を除き、普通の庶民がカニを食べる習慣はほとんどなかったらしい。せいぜいヒラメなど高級魚の網に入るものを食したり、雌のコッペにいたっては子どものおやつ程度にしか使われていなかったとのこと。

個人的な思い出でも、カニといえばタラバの缶詰(カニ缶)。それもイイのはかなり高く、贅沢な贈り物という感じでした。東京辺りではズワイ蟹そのものに興味がなかった時代が続いていたというのも本を読んで驚いた次第です。

要するに、生のカニあるいは茹でたてのカニというのは知る人ゾ知る食べ物だったのです。

そのカニを有名にしたのは1972年に大阪にできた「かに道楽」。道頓堀の、あの足がゴニョゴニョ動く看板で有名なカニのお店です。カニ漁港で有名な津居山の隣村出身の今津芳雄氏が「都会でもカニ料理は受けるはず」と始めたお店が起点になって、今現在私たちが知る、カニという道楽が始まるのです。

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大阪のカニ道楽でカニの美味しさを知る人が増えてくると、現地へ行けばもっと鮮度のよいのが安く食べられるのではないかと思うのは食いしん坊の性。日帰りのJRカニカニ列車まで登場し、カニ漁港近郊の市場や温泉街には観光客が訪れるようになり、いつのまにかカニのブランド化が進みます。

兵庫なら香住、津居山、柴山。京都なら間人、福井なら三国や越前。そして石川なら橋立等、いろいろと有名処が知れ渡るのは時間の問題でした。そして値段はうなぎ登り。現在、出発点の「かに道楽」ではロシア産の蟹を使って値段を抑え、どうしても国産が欲しい客には特別に用意しているとのこと。詳しくは本をお読み下さい。

著者の広尾さんは旅行会社でカニツーリズムの一員を担っていたとのこと。その彼女が退職後大学へ入ってカニの社会史を調べて書き上げたのが本書。今まで本書のような、一般向けのカニの本がなかったのが不思議な位です。

美味しいウチコがたっぷり詰まった香箱のように、この本にはカニの蘊蓄がいっぱい。この本を読めばカニの美味しさが増すこと、請け負います。お薦め。