工芸 着物 大茶盛

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先の三連休は加賀へ。まだ紅葉には早すぎた那谷寺に立ち寄った後、加賀の九谷焼美術館へ向かいました。そこでスタッフの方から翌3日に近くのお寺で大茶碗を使ったお茶会があると聞いて足を運んだら、何とまぁ驚きの体験が待っていました。

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加賀市大聖寺にある九谷焼美術館へ。たぶん3回目か4回目。今回は来年金沢へやってくる国立近代美術館工芸館の前振り展示があると聞いたから。

あまり期待せずに出かけたら、陳列作品のデキが圧倒的で感動的。出品作家は魯山人、十三代今右衛門、加守田章二、荒川豊蔵、富本憲吉、濵田庄司、バーナード・リーチにルーシー・リー等々。美術本でしか見たことがなかったものや、ひえぇこんなのあったんかと溜息が出そうなもの多々で驚くばかり。久しぶりに眼の保養というか脳の活性化になりました。

そんな展示に魅入っていると、美術館のお掃除の女性から明日近くのお寺で大茶盛会がありますよ、どうですかとのこと。連れ合いが着物を着ていたせいか、こちらが数寄者と思われたのか、声をかけて下さったみたい(注)。

その晩は山代温泉でゆっくりお湯につかり、翌日美術館近くの蓮光寺へ。以前は予約が必要だったお茶会ですが、当日朝電話したら受付順にオッケイと聞き、出かけた次第です。

30分ちょい待ったら、1グループ20名づつでお茶席が2つ用意されていました。一席目の茶会は飲み口がゆうに30cmは超えていそうな大きな茶碗で点てた茶を5人づつで飲むのですが、この茶碗が重い重い。ちなみに、茶道具もすべてデカい。

茶碗の大きさ重さは、ひ弱な人は抱えられるのかいな〜と思うくらいでしたが、聞けば周りが支えることもよくあるらしい。そうした飲み方が大仰になることから、皆でわいわい笑ってお茶を楽しもうというのが本来の目的らしく、その通りの体験となりました。とにかく面白い。こんな茶会があるのかというのが第一の驚き。

男性比率が宝塚劇場程度の中(20名中2人)、私が座ったのはなんとまぁの第一席。何も知らない自分がここでいいのかと思っても常連の女性陣の強い要望では逆らえません。

こういう茶会に出るには懐紙や黒文字などを前もって個々人で用意しておくのが礼儀というのも今回わかりました。京都では至れり尽くせりなので知らなかっただけ。見かねた隣の女性から懐紙を頂戴したり、お茶の飲み方をはじめ何も知らないため同席の方々に迷惑をかけたかと思うとちょっと反省。


飲み終わった後、その大茶碗が荒川豊蔵のものであると知り、ぎょえぇ〜。これが第二の、そして今回一番の驚きでした。

焼きものに詳しい人なら説明不要。荒川豊蔵は多治見出身の人間国宝で数々の名作を生み出し、魯山人の陶芸の先生でもあります。そんな人物の茶碗でお茶を飲むなんて機会はまたあるのか。それにしても、飲む前に知っていたら緊張していたかもしれませんが、飲んだ後に知ったのは幸いでした。

左が荒川豊蔵作の大茶碗。

この大茶盛会、もともとは鎌倉時代に奈良の西大寺で釈尊が始めたのがルーツとか。それが加賀の連光寺でも始まったのは地元出身の衆議院議員竹田儀一氏(故人)が荒川作の大きな茶碗を2つ寄贈し、「宗派関係なくお茶を楽しもう」で始まったといわれています。

亭主を務めた住職のお話によると、大茶盛会は52年前に始まり、途中の中断を挟み現在の形式になってからは12回目とのこと。「継続は力だと云いますが、継続は宝です」という話がなかなかいい。また、お茶を点てたのは荒木宗英裏千家教授とその社中の皆様。寛いだ雰囲気を作り出すたしかな手腕に感謝。何も知らないのでいろいろご迷惑かけましたが、得難い経験をありがとうございました。

予定外の出会いや経験は家にいてはなかなか得られません。これだから旅は止められない。

(注)私の人生訓の1つに掃除の女性は恐るべし、というのがあります。というのも、昔職場で清掃サービスをしていたご夫妻は奈良でも有数の土地持ちで、お金がありすぎ暇なので掃除サービスで時間を費やしていました。聞けば、大茶盛会を教えて下さった今回の女性はときどき和装でお茶会やレストランへ出かけるらしく、先のお金持ちと同じニオイ。