妥協のプール水深
2014/07/08
学校プールの水深は1メートルから1.2メートル前後。飛び込みスタートに対して安全なのかどうかといえば全くダメ。おまけに飛び込み台を設け、水深管理も不満足では危険性はより高い。おそらく飛び込みの危険性よりも溺水防止を重視した結果の水深なのでしょう(本稿は拙著『あぶないプール』に記したものを基にしています)。
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学校プールの水深は低すぎます。飛び込んだ時に鼻や頭部が接触するのが避けられず、不運な場合打ち付けられるので非常に危険です。学校や自治体等のプール管理者側はそのことを理解していません。
だいいち学校プールの水深は飛び込みスタートについての安全基準を満たしていません。そのことを順番に説明していきましょう。
プール水深についてはいくつかのガイダンスが存在します。たとえば、文科省は幼児、小学校、中学校、高校それぞれに分けて最浅・最深を定めていて(1966)、中学校では最浅0.8、最深1.4(メートル)です。
また、日本建築学会は水泳プール設備について、中学校プールについて「0.9ないしは1.4メートル」としています。さらに、日本水泳連盟は、プール公認規則において標準プール水深を小中学校では0.8メートル以上と定め、付帯事項として「飛び込み事故防止の観点から1.0メートル以上とすることが望ましい」としています。
これら基準らしきものが現行プール施設の根拠になっているのですが、だとしたら水深1.2メートルには何ら問題はないじゃないかと思われるかもしれません。でも、これらが作られた時代はもうとっくに過去のこと。現在の身長体重変化にはそぐわない実情が出ています。
現実問題として飛び込み事故が繰り返され、深刻な被害を生み出してきたのは水深の決め方に科学的な根拠がなく、安全基準ではなかったためです。
じゃ、いったい安全なプール水深とはどれくらいの深さなのでしょうか。日本水泳連盟は1992(平成4)の公認プールの規則改正の時、実情に鑑み補足説明で以下のように記しました。
水深1.2メートルは決して安全の基準ではない。しかし、成人男子あるいはそれに近い体格の人間が任意なあるいは乱暴な姿勢で飛び込んで頭部や頸部を傷めないですむとされる水深2.7メートル以上を規則で強制するとは、余りにも現実離れしているための妥協に過ぎない(出典は判例時報1485号)
おわかりになりましたでしょうか?
要するに、安全な水深は2.7メートルで、 水深1.2メートルは妥協だというわけ。おそらく、そんなに深いプールを作るのは建設コストがかかりすぎる上、溺水も問題にしなければなりません。でも、「余りにも現実離れ」を現実的にした代償は飛び込みスタートの危険性でした。このことを無視してプール運用をするのは、生徒ら遊泳者を危険に追い込むことになってしまいます。
加えて日水連は飛び込みの危険性に鑑み、「端壁前方5mまでの水深が1.2メートル未満であるときは、スタート台を設置してはならない」と記しており、学校プールの多くが危険な状態のまま放置されていることがわかります。
文科省が2012年に飛び込み禁止の通達を出したらしいのですが、実情からすれば遅すぎ。また理由をきちんと説明しない限り、学校現場からすれば押し付けのように受け止められているのかもしれません。これでは今回のような事故はまたどこかで起こります。
繰り返します。現行の学校プールで一般的な水深1.2メートル程度では危険です。学校プールでは飛び込みスタートの安全性が担保されていなかったというわけです。
「現実離れした」安全性が確保されることはないでしょうから、飛び込みスタート台を早々に撤去し、飛び込みスタートを止めるしか次の被害者の発生を食い止めることはできません。学校関係者はそのことをきちんと理解してほしいものだと強く願う次第です。