コダックの失敗

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wintertree131888年創業のコダック。写真産業の雄として世界に君臨し、米国の超優良企業とされてきましたが、2012年にチャプター11を申請。その後、2013年に大幅な事業縮小でなんとか名前だけは継続できることになりました。でも、実質的に破綻。
コダックを追い込んだのは写真のデジタル化ですが、最初のデジカメを作ったのは実はコダック。おまけに1979年時点で既に今日的状況を予測していました。そんな先見性あるコダックなのに、なぜ破綻したのか。ゲームのルールが変わるとどうなるのかという観点からも、この経緯はなかなか面白い。

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コダックが世界の最初のデジタルカメラを作ったのは1975年。その後1979年にコダックの幹部が、フィルム市場がどう変化していくのか、デジタル化はどう進むのかについて内部報告書を作成していたとのこと。そこには、

 2010年までにすべての市場で銀塩(フィルム)はデジタルへ移行する

ことが明記されています。今から考えると、この予測はほとんど正確ではないですか。出典はThe Economist誌の記事で、The last Kodak momnet? (2012/01/14)です。このコダックの予測は楡さんの本で知った次第。

1979年といえば、自分が働いたお金で私が一眼レフカメラを買った年でした。おおはしゃぎでパシャパシャやっていた、まさにあの頃、銀塩フィルムカメラの終焉は既に予測されていたという事実にちょっと驚きます。

その予測を受けて、コダックが考えたのは「デジタル化を急がない」。つまり、儲けのネタはできるだけ引き延ばすということでした。というのも、銀塩フィルムでは1ドルにつき70セント儲かるところが、デジタルではおよそ5セントしか儲からないことも予測していたからです。

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)往々にして成功しているビジネスモデルは簡単には手放せません。コダックのような業界の覇者はそれゆえに尚更。新規事業と云っても簡単ではありません。研究開発には時間はかかるし、新しい分野に従業員を振り返ることは難しい。売上が上がっている時にリストラなんかとんでもない。できるだけ未来の到来を送らせれば打つ手もいろいろあるだろう…、そんなことを考えたのでしょうか。まさしく、クリステンセンの云う、「イノベーションのジレンマ」でした。

その結果はどうだったか。デジタル化でフィルム市場は急速に消失し、トレンドに乗り遅れたコダックは経営破綻に陥ってしまいました。デジタル化の未来を予測できていたにもかかわらず…。すなわち、コダックは読み間違えたのではなく、対処を間違えた、あるいは無作為だったということ。

The Economist誌は一般的な会社の寿命に触れながら最後に一言、

 After 132 years it is poised, like an old photo, to fade away.
(創業から)132年の後、古い写真のようにコダックは消えかかっている。(勝手訳)

うまいなぁ。流石、The Economist誌の記事、アイロニーとウィットが効いています。

それはさておき、コダックの失敗は教訓いっぱい。いくら賢くてもいくら将来が正確に見通せても、行動力が伴わなければ何の意味もない。でも私思うに、行動力以前の問題として、ゲームのルールが変わる時には、それまでの考え方の枠組み(パラダイム)を捨ててかからないと対処はできない、そういうことなんじゃないですかね〜。
saku1312