ロングテール

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ロングテール―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略長い尻尾とは何か。従来、一部のヒット商品の売り上げがマーケット全体のほとんどを占めてきました。この現象を「パレートの法則」とか80対20の法則と云って説明してきましたが、アマゾンやグーグル等の登場とその普及で裾野部分にも光が当たるようになりました。この裾野部分をロングテールと称し、その現象や意味を探ることで、今後の社会の様相を考えてみようというのが本書の試みです。

「ロングテール」クリス・アンダーソン・篠森ゆりこ訳(早川書房 2006)

著者はWiredの編集長。ロングテールといえばアマゾン…、日本のメディアのワンパターン話とは違って、本家本元の議論は音楽や本、それにさまざまな商品への目配りがなされています。

たとえば、ロングテールの「発見」に至る音楽販売会社のエピソードは80対20どころか、98対2であることにまずびっくり。そのことがWired誌で発表されたのは2004年10月号のことですから、ほんの少し前のこと。そして、その事実を起点に著者は、アマゾン、グーグル、iTunes Music Storeは当然ながら、さまざまなロングテールを捜し出していきます。

この本の面白いのは、この事実の発見に留まらず、インターネット社会が世の中の有り様そのものを変化させていく、そのメカニズムをダイナミックに指し示していることでしょうか。著者はニッチ革命と称していますが、TV等のメディアあるいは広告宣言社会との関係を考えていくならば、単なるシッポではなく頭や体の向きさえ変えてしまうような威力を有していることを匂わせています。

さてさて、インターネット社会がいったいどこへ向かっていくのか。ロングテールに示されるように選択の自由度が上がるのはたしかに喜ばしい。でもその一方で、パターン化したロングテールの演出が蔓延るようになるとオソロシイ。誰かの望む洗脳社会にならないように、ロングテールはユーザーサイドの情報発信で留め、個人の好みや嗜好をパターン化させてしまうようなロングテールの商品化の動きには抵抗していく必要がありそうです。そのためにもこういった新しい概念とその意味するところを私自身が見極めていく必要があるのではないでしょうか。

私ゴトで云えば、ロングテールという言葉自体は2年ほど前から時々見聞きしてきたのですが、Web2.0同様、概念はわかるけど実際はどうなんかなぁ、一種宣伝のたぐいじゃないのかなぁ…程度の理解しかありませんでした。

ところが、昨年ふじみ野市のプール事件でメディアに頻繁に顔を出した時、あるblogで私のことを「評論家のロングテール」だと評した人がいて、その時はじめて「ロングテール」の本質的な意味を我が身に照らし理解できました(苦笑)。ちょうど同じ頃、この本が出版されたので、すぐに読破し、改めて社会の変化を実感した次第。1冊目はミュージシャンをめざす若い友人に進呈したため、私の手元にあるのは2冊目です。

ウェブ社会の行く末、いやいや今後の社会の有り様に興味のある人にとってはマスト・リード。お薦めです。