埼玉プール事故:いつかフタは開く
2006/08/30
ふじみ野市大井プールでの吸水口事件。先日、「フタの固定」は応急処置に過ぎないと書きました。いつかはわかりませんが、いずれフタが開いてしまう可能性があるからです。固定しているのにフタが開くとは解せないとか意味不明だ等と思わないで下さい。過去の事故例がそのことを証明しているのです。なぜ開くのか、その訳は…。
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今回の事件を契機に全国のプールの吸排水口の調査が行われ、フタの固定がなされていないプールや、吸排水管に吸い込み防止金具がついていないプールが多数見つかりました。過去に事故が起きていないから問題なし等と開き直っているプールは論外ですが、まともな管理者の下では一応の対策が取られつつあります。そうでないと、今までの被害者の尊い命は報われません。
ところが、その固定したフタがいずれ開くと云ったら、あなたはどう思いますか?
吸排水口に吸い込まれた過去の事故例をみると、
- プール清掃中に吸い込まれた
- 何者かにフタのネジがはずされていた
- 事件当時なぜかしらフタが開いていた
- 掃除の時にボルトの腐蝕がありフタをせず放置
- フタはずれを直そうとして事故に遭った
等があります(拙著「あぶないプール」より)。
いくら閉めていても、掃除や点検補修の際にはフタを開けます。この時、そこが開いていれば危険だと関係者が理解していれば、作業の後でしっかりと固定しなければならないと考えるでしょう。でも、そこが危険な場所だと知らない者が作業していたらどうなるでしょうか?フタは開いたままになったり、固定されずに放置されてしまうということが起こります。
いつのまにかフタが開いていたというケースはどうか。簡単に開くようなフタであれば、誰かが悪戯したり間違って開けてしまうこともあるでしょう。また、フタの重量が重いから簡単に開かない等というプール管理者が後を絶ちませんが、これは全く想像力を欠いています。フタを頭の上まで担ぎ上げようという話ではありません。かなり重いものでも横にずらしたりするのは比較的簡単です。棒か石でもあれば、もっと楽でしょう。
いやいやフタは溝にしっかり固定されているから大丈夫と云うプール管理者もいますが、これもアウト。吸排水口に繋がっているポンプをオンオフすればフタ下部に上向きに力が働くことがあります。そうするとフタは押し上げられ、場合によってはフタがずれたり開いたりすることは可能性として否定できません。いつのまにか知らずにフタが開く理由を遊泳者などの責任に帰すのはプール管理者として失格。フタをボルトで固定せよとわざわざ指定している意味をもう一度考えていただきたい。
いずれにしても、
いったん固定したフタが開いてしまう
ことがあるのです。
この「いずれ開く」・「知らずに開いてしまう」ことを懸念するが故に、愛知県のプール条例(1961)は二重の安全対策を講じることを要求し、国もまた吸排水管に吸い込み防止金具がつけることを通知しているのです。フタが固定されているから問題なし、吸い込み防止金具がついてなくても安全だ…等と注意を払わないプール管理者が多数見受けられますが、それは国の通知を無視しているだけでなく、過去の事故例にも学ばない愚かな対応です(きっぱり)。
では、「いずれ開く」・「知らずに開いてしまう」フタに対し、プール管理者はどう対処したらいいのか。フタの固定を継続的にキープするにはどうしたらいいのか。
まず第一に吸排水口のフタ(安全柵、格子板などなど)の固定はもちろんですが、簡単に開かないものにすること。ハード面の対策です。
とってつけたようなビス締めボルト締めは応急手当に過ぎないと心得て下さい。腐蝕しにくいステンレス製のものを使うのがベターですが、ボルト自身を工夫するのも方法です。たとえば、息子を吸排水事故で失った林田和行さんは、一般のボルトではなく特殊な工具を使わなければ操作できないフタにすることを提案されていますが、この辺の事情を考慮した上での話。ちなみに、林田誠司君ははずれていたフタを友人といっしょに戻そうとして吸い込まれて死亡しています(1995)。
次に吸排水口に関わる安全教育を実施し、吸排水口の日常点検を徹底すること。いわば、ソフト面での対応です。
理念的なものではなく、もし開けたら何が起こるのか、危険性を放置したらどうなるのか具体的な事例(最悪死んでしまう)とともに、吸排水口の維持管理指針をプール関係者の間に周知徹底させることが大切です。先の特殊工具の例でいえば、工具とともに「フタを開ける作業の後は閉鎖を確認しなさい」等の札をつけておくということもできそうです。また、万が一フタが開いていた場合の危機回避についても日頃から周知徹底しておくのが大切ですが、フタが開かないような対応こそ重要だと考えておかなければいけません。
もうひとつ、いや一番大切なのは吸排水口に関する危険性をプール関係者が真摯に理解し、共通認識とすること。
いくらフタの固定や吸い込み防止金具の設置などのハード面を整え、安全教育や危機管理マニュアルの遂行などソフト面を充実させても、なぜそうしなければならないかを忘れてしまうと、いずれまた同じ事件を繰り返します。とくに学校プールや公営プールにおいて人事異動で管理者が変わってしまうと、それまでの経験や知識が立ち消えになることもあるでしょう。プールの吸排水口事件が何度も繰り返されている原因の根っこには、プール関係者の間で問題の危険認識が共有されていないことがありそうです。これまでに被害にあった人たちの命の重さを今一度プール関係者は考えてほしいものです。