埼玉プール事故:あぶない流水プール

プール事故

迂闊でした。吸排水口の吸引力による危険性は、学校プールでも流水プールでも同じ。だから、口の安全柵をしっかり固定していれば少なくとも吸い込まれることはない。そう私は考えていましたし、メディアでもそのことを説明してきました。でも、この考え方は流水プールについては甘かった。
たしかに普通のプールではフタを固定することが最も重要な安全対策なのですが、先日和解の京都府南丹市3セクプール事件や今年7月30日の群馬県伊勢崎市営プールでの事件を考えると、流水プールの吸排水口はそれだけでは済まされず、吸水口の設計そのものに大きな問題があることが明らかになってきたからです。…(16:50 一部書き換え)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
流水プールについて設計のどこが問題なのか?
実は、開口部の面積やフタの設計については明確な基準がありません。プール設計に詳しい人に尋ねると、昭和53年には業界の安全基準らしきものがあったが、国が管理マニュアルや設備基準を作成した時になぜかしら消えてしまった、とのこと。つまり、吸排水口は各プールで好き勝手な「安全柵」を設置しているのです。その中に、きわめて危険なモノが存在し、流水プールでは致命的なことになっているのではないかという危惧を持っています。

話をわかりやすくするため、まず具体的な事例からみていきましょう。
まず、群馬県伊勢崎市の市営プール。先月7月30日に、遊泳中の小学6年生男児2人が吸水口に張り付き動けなくなるという事件がありました。「監視員が数分で救出し、2人は腹部などに内出血が見られた程度で、そのまま帰宅した」(読売新聞8月5日)とのこと。

問題の吸水口はプール底から60センチの高さにあり、直径1センチの穴がある60センチ四方のステンレス板のフタがしてあったとのこと。吸水口内部の吸水管の口径は20センチとのことですから(東京新聞)、プール側にある吸水口サイズはその約10倍。ところが、開口部のフタはパンチボードであるため、開口面積はその穴面積かけることの穴数でしかありません。実際のフタを見ないとはっきりしたことはわかりませんが、吸水管断面積に対してフタ開口部の面積は4倍以上を確保していたのかどうか。4倍ないと流速は4分の1にはなりませんし、吸引力も大きくなり、非常に危険です。

次に、京都府南丹市(旧・日吉町)の第三セクター「日吉ふるさと」のプールでの事件。2000年3月、こども用流水プールで泳いでいた小学校1年生(当時)の男児が吸水口に体を吸い付けられ、一時仮死状態になり、てんかんなどの後遺症を負うという事件が起きました(読売新聞、毎日新聞関西版8月12日他)。被害者とその両親は、事故は予見可能だったとして損害賠償を求めていましたが、8月11日に大阪高裁で和解が成立。事件の経緯は新聞記事などで追ってもらうとして、問題となった吸水口のサイズにご注意下さい。

新聞によると、「深さ約80センチにある側壁の吸水口(縦20センチ、横30センチ)」。これを知って唖然としました。吸水口サイズが小さすぎます。その中にある吸水管が直径20センチなら、吸水口が全部開いていたとしても、その断面積比は2倍程度、直径15センチでもやっと3倍の面積比にしかなりません。

全部開いていたら人を吸い込むので論外。したがって開口部には当然格子柵がしてあったり、パンチボードでフタを作成していたはず。するとさらに開口部面積は小さくなりますので、フタにかかる吸引力は、からだによる閉塞状況によっては内部の吸水管の吸引力と同じ程度になる危険性があります。これではフタが固定されていても、まるで凶器のようなもの。絶句しました…。フタに吸い付くと自力では離れることができません。水中なら溺れてしまうでしょう。

事件当時、「監視員2人でも引き離せず、流水のスイッチを切って救出し、男児は一命を取り留めた…」(読売新聞)とのことでしたが、200キロ以上の吸引力に対抗するには大人2人でも無理だったということなのでしょう。

上記のプール状況については新聞で知るところ以外の情報は今手元にはありませんし、この2例からすべての流水プールの設計にクレームをつけるのは無理があります。

でも、吸排水口の開口部のサイズや開口部面積について明快な技術指針がない現在、フタがあっても吸い付けられる「あぶないプール」は他にもあるのではないか。それが心配です。遊泳者の安全を確保するためには、早急に流水プールの開口部のチェックを各プール管理者にお願いしたい。

私自身、主に学校プールの安全対策を考えていたこともあり、流水プールの吸水口設計に問題があることを見落としていました。そのことを悔やみます。

(追記)
埼玉県ふじみ野市の大野プールについては、吸水口の大きさが主たる問題ではなく、「簡単に取り外せるような安全柵とその設計方法」の方に問題があると考えています。念のため。