ブーメラン

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ブーメラン 欧州から恐慌が返ってくるギリシアを巡る情勢が喧しい。緊縮財政に反対な勢力が選挙で票を伸ばした等と日本のメディアは相変わらずトンチンカン。ヨーロッパ系のニュースを追っていたら、何が起きているのか簡単にわかることなのに、日本のメディアが変なのは何故か?私はそっちの方に興味があります。手っ取り早く知りたいなら、マイケル・ルイスさんの「ブーメラン」でも読んでみて下さい。

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マイケル・ルイスさん、最近「マネー・ボール」が映画になりましたが、もともと相場本が一番。だって、彼の出身はソロモン・ブラザーズ。それもグッドフレンド会長時代、上司には後のLTCM会長のメリウェザー。その思い出を書いた「ライアーズ・ポーカー」で文筆業に転じた変わり種。

この本では、アイスランド、ギリシア、アイルランド、ドイツを取り上げ、リーマンショック後の各国経済の落ち込みの理由を探っています。面白いのは各国様々で、不幸のカタチにもいろいろあるということでしょうか。でも、全部が全部、偶然の不幸ではなく自ら招いた不幸。ルイスさんが云いたいのはそういうこと。

今ギリシアが話題だから、本書のギリシアに関する章について見てみましょう。まず章のタイトルが「公務員が民間企業の3倍の給料をとる国」、これだけで雰囲気はよくわかります。

まず国の経費がとんでもなくデカイ。公務員の数が異様に多いだけでなく(就業人口の3割以上という話あり)、その給料も民間の3倍程度と信じられないくらいに高い。

この本の例では、国有鉄道の歳入が1億ユーロなのに職員の年俸は4億ユーロで、さらに3億ユーロの諸経費。財務相曰く「ギリシアの鉄道利用者を全員タクシーに乗せた方が安上がり」とのこと。おまけに、年金財政は完全に破綻しているのに、それを改善しようという機運すら全くなし。これで緊縮財政反対を訴えても国際的な共感を得られるはずはなし。フクシマ報道と同じく、NHK他日本メディアによるギリシア関連報道は世界の非常識なのです。

一方で、ギリシアにまともな徴税システムがありません。たとえば、「もし法がきちんと執行されたら、ギリシア国内の医師は全員刑務所行き」とかで、あらゆる自営業者、医師からキオスク店主までが脱税の常習犯。歳出はきわめて巨額なのに歳入はほとんどなしでは破綻するのが当たり前でしょう。

ユーロに入りたいが故に国家財政をごまかし、その後は他のユーロ諸国からお金をせびって散財財政を延命しようというわけです。ギリシア国債を世界中に買わせ、ギリシアをつぶしたらおまえらも潰れるゾというヤクザまがいの脅しは確信犯だったのでしょうか。手配師はゴールドマンサックスなどの金融機関ですから国際的な詐欺といってもいいでしょう。

元政権のインチキを告発したパパンドレウ元首相らの英断でせっかくまともになるため国際支援をとりつけても、今回の選挙で国民がぶち壊しにしてしまいました。

ユーロ圏だけをとっても、所得の低い東欧が贅沢三昧のギリシアを支えるという構造はブラックユーモアを超えています。エゴ丸出しのユーロ圏お荷物国家がこれからどうなるのか。私がメルケルなら、ギリシア国債の売却があらかた整ったら、ギリシアのユーロからの放逐を図るでしょうね。きっと。

この本で問題にしているのはギリシアだけではありません。いつ他の国が燃え上がってもおかしくないのがユーロ圏。年明け以来、景気が上向いたとか株価が上昇なんての話は蜃気楼だったのか、それとも誰かの仕掛けなのか。

この本を読んだのは年明けすぐ。でも、ここのところのギリシア話題に鑑み、今回紹介する次第です。ところで、ブーメランって西城秀樹の歌を思い出すのは私だけじゃないよね?