10年後に食える仕事

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10年後に食える仕事、食えない仕事渡邊正裕さんの『10年後に食える仕事 食えない仕事』(東洋経済新報社 2012)。これはアナザー『下山の思想』
なぜか。これからの人気職業はどうなるのか、どんな仕事が世間に必要とされるのか等を考えるためには、この国のトレンドが右肩上がりなのか・そうでないのか、要するにこの国の行く先をも判断しなければならなくなるからです。

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仮にあなたが何か仕事を探しているとしましょうか。

来月潰れるような会社に勤めたいと思いますか?これからお客さんがいなくなるような産業に関係したいと思いますか?

どちらもノーなのが普通でしょう。誰しも生き甲斐を持って仕事をしたいと思うし、対価である給料もきちんと払ってくれる方が有り難い。そうすると、この国の仕事の有り様をも視野に入れておかなければなりません。

戦後の高度経済成長とバブル崩壊を経て日本は下り坂。デフレは延々と続き、景気は芳しくない。GDPは中国の後塵を拝し、1人当たりでみても世界のトップグループからどんどん脱落中。そんな状況の中で、これから10年20年食いっぱぐれないためには、どういう考え方でどういう選択をしたらいいのか。それがこの本のテーマです。

著者は、日本人であることのメリットとスキルの程度に応じて4象限の職業マップを提出します。そして、それぞれの今後を予想し、これから選ぶべき道筋を提案していますが、その分析はなかなか秀逸です。

たとえば、「グローバル化で(国内の)職の72%は価値を失う」、そう著者は主張します。この分析は数字の多寡はともかく妥当だと思いますし、心して読むべきところ。とくにこれから職を探そうとする若い人には是非読んでほしい処。ここを押さえておかないと職選びに失敗し、後から後悔することになるかもしれません。

一方で、日本の中でなければ成立しないサービス産業や日本人の強みを活かした仕事というのも有ることがこの本の中でよくわかりました。上質な旅館業みたいなものがそうだとする下りは思わず膝を打ちますし、読んでいて爽快ですね。

いずれにしても、20年位前の日本と今とでは話が全く違う、そのことを皆が理解できるのかどうか。この国のTVや新聞は過去の「栄光」を経験した人たちが作っているせいか、厳しい現状を正確に伝えているとはとても云えません。むしろ「夢よ、もう一度」的な雰囲気で若者を幻惑させているのではないかと心配するくらいです。

下りの世界で上昇気流を見つけるよりも上りの世界を探して飛び込んでいく方がずっと簡単です。そして、そのスコープに国境はありません。車や電化製品を世界中で売りまくっているのに、職場だけが国内というのでは筋が通りません。

著者は五木さんの『下山の思想』を下敷きにしているわけではないでしょう。でも、状況分析には共通点も多く、私には両本合わせて読むのがベターなような気がしました。良書です(続く)。