スイスコットン

.opinion fashion

コットンにはいろいろあるが、スイスコットンが一番だ…、昔々そんな話を某アパレルメーカーの偉いさんに聞きました。24年前ヨーロッパから帰国する飛行機の中での話。
コットンといえば、シーアイランドとかギザとかは知っていましたが、スイスコットンとはなんぞや。

・・・

私の記憶を辿るとその時聞いた話では、スイスとイタリアとの境目辺りか、あるいはオーストリアとの境目辺りか、最上級のコットンがとれる場所があるそうな。そのコットンをスイスコットンと称しているんだそうで、着心地はまるでシルクのようだ・・・というようなものでした(実際にはスイスでコットンが採れるわけではなく、米国の綿をスイスで撚糸したものをスイスコットンというようです)。

何か秘密の話を聞いたような気がして楽しくなってしまいました。でも、話はその時だけで、その後何枚もシャツを誂える機会があってもスイスコットンを使おうなんて考えもしなかったのはなぜなのか。どうやら自分とは違う世界のことだと考えたのかもしれません。

ところが今年になって高島屋の馴染みの某アパレル店で手触りの良いシャツを発見。聞いてみると、オーストリア製とか。既製品なのに値段が高いのは生地代が高いから、とのことでした。この時、記憶の底に沈んでいた例のスイスコットンが見事に蘇りました。

昔はインターネットなんかありませんでしたから調べるのは殆ど無理でしたが、今はカチャカチャ、ほいリターンで簡単に検索できてしまいます(笑)。チェックしてみると、くだんのオーストリア生地はどうやらGETZNERという銘柄らしい。そして、GETZNERを紹介していた某オーダーシャツ屋さんにはスイスのALUMOなんて生地も出ていました。あぁ、これだこれだ、こいつがあのスイスコットンやないでっか!

長い長い時を経て、昔見かけた宝物に遭遇したような感じもあり、早速その生地でシャツを一枚作ることにしました。お店は時々行く金沢にあり、前を通った時に感じの良い仕立て屋さんだなぁと思ったことはありましたが、まさかそこに、あのスイスコットンがあったとは!

(途中省略)

ちょうど今日仕上がってきましたが、ほれぼれとする肌触りと着心地に大満足。今回手に入れたのはカシミヤ混じりのコットンですから余計に柔らかい。カシミア・コットン素材って欧州では意外とトレンドなのかもしれません。

スイスコットン、いいですよ〜。値段もべらぼうじゃない。デパートで上質な仕立てシャツを作るのに比べると割安感すらあります。
う〜〜ん、もっと早く手を出すべきだったのか、それともこちらがスイスコットンを着るくらいに年や経験を重ねた結果なのか(苦笑)。そして、この生地を見る度にあのアパレルメーカーの偉いさんの話を思い出すことでしょう。

(おまけ)
ところで、
私にスイスコットンのことを教えてくれた部長さんは、ちょうどパリコレ・ミラコレからの帰りとのことでした。残念なことに、氏のアパレルメーカーは2004年に民事再生法の適用を受け、昨年春に会社を清算してしまいました。デフレの世の中がホンマモンを駆逐していくのか、それともホンマモンの存在を社会が忘れ去っていくのか、いやいや、ホンマモンを扱っているという会社の誇りがバブル以後の時代を乗り越え難くしてしまったのか。いずれにせよ、ホンマモンには受難の時代なのかもしれません。

(追記 2013/3/18)
1年後の話として、イタリアコットン  あるいはスイスコットンその後を追加しました。