人間とごみ

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人間とごみ—ごみをめぐる歴史と文化、ヨーロッパの経験に学ぶ著者:カトリーヌ・ド・シルギー 
訳者:ルソー麻衣子 編訳:久松健一 新評論 1999.07.31

サブタイトルは、人間とごみ—ごみをめぐる歴史と文化、ヨーロッパの経験に学ぶごみをめぐる歴史と文化、ヨーロッパの経験に学ぶ、です。日本以外の国のごみ事情がよくわかる力作。とくに、ごみという厄介物を「社会から追い出された人たち」が有用物にかえている状況を暖かい目で見つめている箇所は類書にない観点です。

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ごみははたして厄介物なのでしょうか。
昔、昔といっても数百年以上前のことですが、ごみ処理は自然に委ねられていました。それが産業の発展とともに、廃棄すべき厄介物となっていき、ごみ問題はどんどん深刻化していきます。
この状況を焼却と埋め立てで解消しようというのが、たとえば日本で進められている政策ですが、これとて焼却場や処分場近辺の住環境や自然環境への影響が無視できなくなってくると、当局の思うようには進みません。

フランスでも同じこと。ただ、日本と違って、焼却を金科玉条としていない点が違いでしょうか。その代わり、埋め立て処分に関する社会問題はより深刻のようです。

この本は現代のごみ問題をダイレクトに描写するのではなく、中世以前からの、フランスやヨーロッパにおけるごみと人とのつきあい方を紹介していきます。その中で、現在ごみと称されているものが、必ずしも厄介物ではなく、有用物が多くあること、「くず屋」と称する集団の社会的役割の重要性にも目を向けています。
 
また、ごみを厄介物として目の前から隠してしまうことで、土壌の肥沃土を低下させてきたことに触れ、生ごみ・コンポストの大切さに言及しています。ここで、ミミズコンポストも登場しますが、盛んなのは米国と日本であるという箇所に頷いていいのかどうか迷ってしまいました(苦笑)。

分別、リサイクルという、日本では日常化してしまったごみ用語が、他の国ではどうなっていのか、メキシコやインド、ブラジル、インドネシアなどの実例も紹介しています。最後に、ごみで遊ぶ話や芸術絡みの紹介、精神的に障害を受けた人たちがごみとどうつきあっているのか等、さすがフランス人の観点はアーティスティックで人権的だなぁと思う次第です。

この本は、ごみとどうつきあっていくか、どういう選択をしていくか、大規模な分別>回収>リサイクルの流れを成功させるにはどうしたらいいのか、そのことを歴史を紐解きながら考えるヒントになるでしょう。

巻末の用語集や参考文献は非常によくまとまっています。ニンビー症候群もこの本で知りました。著者はフランス環境エネルギー省の廃棄物管理局勤務とのこと。その割には?、最後まで本を読んでも、具体的な解決策が提示されていませんし、役所的な紋切り解釈も出てきません。むしろ、役所ではなかなか出せない意見や考え方を本のカタチで表に出したかったのかもしれません。
フランスやヨーロッパのごみ問題、それも歴史的な経緯を知りたい方にはお薦めします。