ゼネコンが日本を亡ぼす

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ゼネコンが日本を亡ぼす―あなたは1億円払えますか?一気に読みました。著著は元ゼネコン社員。副題の「あなたは1億円払えますか?」の説明は明快です。公共事業は本当に必要なのか。日本の建設技術は優秀なのか。この本に書かれていることを理解すれば、ダムや橋などの巨大土建工事に対する見方が変わるはずです。…

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ゼネコンが日本を亡ぼす 

あなたは1億円 払えますか?
著者:古館真    明窓出版  1998.12.1

水源水質の悪化が先か、それとも財政上の破綻が先なのか? 水道事業の今後を考える場合、私は後者だと思っています。なぜか?

必要のない水源開発にかかるお金だけの問題でありません。20年前30年前以前に作った水道施設の老朽化に伴い、当初の建設費を遙かに上回る補修費と維持管理費をこれから払っていかなければならないのに、そのことに対して何ら担保していないのが現在の水道事業だから、です。そのことが顕在化してくると水道料金を数倍に跳ね上げても追いつかない状況がくる。そのことに対する批判が、私の水道当局を辞職した理由のひとつでした(これはいつか詳しく説明しようと思っています)。

さて、この本は水道事業のことを書いているわけではありません。でも、巨大な土木建設(ドケン)事業がいかに破綻していくかという点について、補修と維持管理費の金額の大きさ等で説明しようと試みています。それは非常に的を射た賢明なアプローチです。

この本のキーワードは「維持補修費」。いったいどれくらいの金額で、誰がそれを支払うのか、著者は実例をあげて読者に迫ってきます。著者曰く、1996年度の公共投資額は約42兆円。これを人口1.2億人とし、一生80年間払い続けるとして、一人当たり3000万円!。でも、過去の実績から考慮すると、維持補修費は初期の建設費の4〜5倍はかかる。とすると、公共事業に対する国民負担は1億円を超えるではないか、これをあなたは払えるのか? という問いかけです。具体的な金額を上げられると到底無理なことが誰にでも実感できるのではないでしょうか。

コンクリート構造物の耐久性が思ったより高くないことは既に識者らが指摘してきた通りです。阪神大震災の時を思い起こしても、この国のコンクリート構造物がいかにデタラメであったかを証明したともいえます。著者はそのことも触れながら、だから今後の維持補修費が莫大になるのだと主張します。私はその予想に同意します。

コンクリートが危ないコンクリート構造物の耐久性については、山陽新幹線トンネルの躯体剥離・脱落などで有名になりました。阪神大震災で明らかになった道路高架橋の手抜き工事ってのもありましたね。アルカリ骨材反応の恐ろしさについては関係者なら知らないはずはありません。たとえば、専門家の小林一輔氏が著した「コンクリートが危ない」(岩波新書 1999)などを読めば、事態の深刻さは明らかです。

これからの財政負担がいかにして世の中を破綻に追い込んでいくのか。ああ、そうなのか、やはり補修費と維持管理費がポイントなのか。私自身、そのことを改めて古館氏の本で痛感した次第です。

この著者の書いたものを読むのは始めてでした。でも、鴻池組という中堅ゼネコンに勤めていた建築屋さんであることを明らかにした上で、自らの経験を踏まえて記しています。そこにこの本の重みもあるといえましょう。
明窓出版という出版社も始めて知りました。でも、無名であることと本の内容は全く無関係です。この本は、この国のドケン事業がいかに破綻しているかを非常にわかりやすい観点から追及している名著としてお薦めします。