敵とは?

.opinion

鬱陶しくて何とも後味の悪い映画でした。題名は「敵」。筒井康隆原作、吉田大八監督、長塚京三主演。上映初日の1月17日に京都のアップリンクへ。高齢者を主人公にした映画ですが、メンタルの弱い高齢者は見ない方が良さそう・・・と考えていると自身の感傷の裏にあるものに気づいて愕然。

・・・

話題の映画に早速出かけてきました。元大学教授というインテリ高齢者が主人公。仕事を辞め、妻にも死に別れたという設定です。主人公は日々の暮らしの中で次第に妄想に駆られ、どこまでが現実なのか分からない、そんな毎日を過ごしています。ある時、電子メールでどこからか「敵がくる」とのメッセージあり。その敵とは何なのか、その問いを軸に話が進んでいく・・・という展開。

感想を一言でいえば、後味はとても悪いけれど記憶には残る映画で、おそらく名作の部類に入るでしょう。でも、黒澤・志村の「生きる」とは方向性が違います。

さて、敵とは何か、映画パンフで監督が語っている箇所もありますから、私が云うまでもないでしょう。こちらも日々老いを感じる身なので、妄想に駆られる主人公を見ていると何とも切なく身につまされました。映画の上映途中で退席する高齢者が当日何人もいたのは、居たたまれなくなったのではないでしょうか。よほどメンタルの強さに自信のある人を除き、高齢者にはお勧めできないし、若者世代・中年世代にとってもツライ映画なのではと感じました。映画を観て落ち込んでしまっても私は知りません(ホンマ)。

主演の長塚さん、取り巻く俳優陣もみな素晴らしい。実際にそこに居るような、あるいは妄想の中に居るような、不思議なニュアンスを漂わせています。俳優が演技している筈なのに、そうとは思えない程の存在感あるいは非存在感。最近では珍しいモノクロ画像であることも相まって、テーマが際立ち、こちらは余計に落ち込みます(笑)。

細かい話ですが、鶏肝の下調理をするシーンなどの丁寧さに感心してしまいました。でも、1人で作って1人で食べるという行為は第三者から見ると何かモノ悲しいものですね。やはり食事は楽しく会話しながらが一番だと今更ながら思います(1人になると大変だな)。

映画の中身とは別な話も少し。作中に登場するパソコンは大画面のiMacでした。大正昭和的な雰囲気の家の中で今風なマシンがなぜかぴったり。そういえば、作者の筒井康隆さんはMac使い。その筒井さんのMac相談にのっていたのは、もう20年以上会っていない知人のF本さんだったことを思い出しました。・・・映画の話に戻ると、

この映画、老いと真摯に向き合っている人、あるいは向き合う気概のある人以外には薦められない映画だなと思っていたのですが・・・・・この映画の後味の悪さは、確実にやって来る、決して逃れられない現実に向き合うのをこちらが嫌がっている気持ちの裏返しだと、後で理解した次第。

おまけ:映画の後、京都駅南側の割烹「」で超美味しいお食事を堪能。ここの大将はNYのKajitsu(初代)で白 Tsukumo(奈良)の西原さんと一緒に調理を担当していた田中嘉人さん。NYから一時帰国されたAさんのお薦めで昨年訪れ、嵌まってしまいました。店は気楽なカウンター席がメイン、でも料理は超一流。その料理をアラカルトで注文できるのが有り難い。ということで、映画の後味の鬱陶しさを美味しい食事で解消できたので、まぁ良しとしました。