ル・プレ・カトラン その2 Le Pré Catelan

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1stPre2落ち着いた雰囲気のテーブルには緑いっぱいの庭から陽射しが注ぎ込んでいます。でも、空調が効いているせいか暑さは感じません。ギャルソンが何度もレースのカーテンを閉めましょうかとこちらに尋ねたり、大きな窓の上部にあるロールカーテンを調節したりして陽射しの調節をしてくれました。
食事前に写真を撮ってもオッケイなのを確認していましたが、強い陽射しの下なので影が出ています、その辺はご勘弁。

それでは、私たち夫婦が味わった当日のLe Pré Catelanの旗艦メニュー、Le Menu du Préを順に紹介していきましょう。

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まず、アミューズ・ブーシュ。
だいたい1皿目の前には一口大の洒落たモノが出てきます。アミューズ・ブーシュとかアミューズ・グールというもので、直訳すれば「お口を楽しませるモノ」。注文したお皿の前に出てきますので、日本でいうところの「付き出し」のようなものでしょうか。<ちょっと違うかな。
amuse
本日のル・プレカトランでは、じゃがいものピューレの上にギャルソンがテーブルにてグリーンピースソースをかけてくれました。味付けは塩分控えめというより、ほとんど素材の味に近いもの。さっぱりしたお野菜の味わいで口慣らしのスターターになりました。

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さぁ、一皿目は「トマト」です。メニュー上では以下の通りですが、読んだだけでは何のことだかわからない(苦笑)。食べて愉しみながら解読していきましょう。

1stPreLa Tomate
Préparée en Salade,
Huile d’Olive parfumee a la Vanille et zestes de Citron vert,
Tomate 《Mozzarelle》 an gelée

まず、このトマトは2皿セットで登場。説明ではサラダ。1つはジュレ仕立て。見てもわかるように、食べるのがもったいない位、宝石箱のように美しい。意を決し(オーバーだな)、スプーンですくって口へ入れるとモッツァレラ・カプレーゼの味が口の中で浮かび上がってきました。
ああ、だから、トマト《モッツァレラ》なのか。ダッコー!

ベースは厚さ2,3ミリの微かなトマト味のゼリーが敷き詰められ、その上に赤いのはトマト、白いのはモッツァレラチーズ、緑はバジルをそれぞれゼリー状にして径1ミリ強の球体にして載せたもの。そう、まさにカプレーゼを分解して絵画的に構築し直したもの。手が込んでいます。でも、そういう面倒な作業を感じさせないくらいの完璧な完成度で、見た目の美しさはスペシャル級。味わいも塩分が抑えられていて実に美味。記憶に残る料理でした。

ガツンとした味わいを期待する人には難ありかもしれませんが、たとえば京都のお出汁の繊細さを心から楽しむことができる人には結構いけるはず。

こう書いていて、プレ・カトランって京都の懐石料理に通じる味わいだったなぁと今頃思う次第。要するに伝統的なフランス料理の味付けからはずれかけています。そういえば、イタリアの3つ☆、カランドレの料理もこんな感じの味付けだったかなぁ。まぁ、ここらがプレ・カトランをどう評価するのかの分岐点になりそうです。

1stPre3トマトサラダのもう1つは、トマトスライスにオリーブオイルをかけたもの。スライスといっても、こどもの顔くらいのサイズでデカイ。始めは成形モノかと思ったくらい。聞けば何か特別なトマトらしい。バニラビーンズが加えられているのでアイスクリームのような味わいになっています。その中に微かに感じる柑橘類の香りが青レモンピールなのでしょうか。見栄えはサプライズで素材を大事にしているのはわかりますが、少し固めだったこともあり、もうちょっと食べやすく出来ないかなぁと少し残念。

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2皿目はクラブ、要するにカニ。メニューによると以下の通り。

2ndPreLa Crabe
Préparé en Coque,
Fine Gelee de Corail et Caviar de France,
Soupe au Parfum de Fenouil

今度も2つセットで登場。Coqueって二枚貝のことらしいのですが、二枚貝として用意したカニって何でしょう。2つセットのことを示唆しているのかなぁ。

ギャルソンにどうやって食べるの?って尋ねると、固めたバターのようなものを載せたスプーンをスープの中に入れて使えとのこと。右はその後にどうぞとのこと。食べてみると、たしかにカニスープ。濃厚で複雑な味わいだったのはスプーンに載っていたウイキョウバターの効果なんでしょうか。素直に美味しい。ちょっと塩分が気になりましたが、連れ合いは文句なしとのことだったので微妙な個人差でしょうね、きっと。

2ndPre2驚いたは右側のキャビア。カニスープにキャビアなんか出してきて塩分が重なるのはイヤだし、ましてや缶いっぱいのキャビアなんか単なる贅沢趣味で何やねんと思った位。これじゃ食指が沸きません。ところが、………

 小さなスプーンを入れてみると、あれれ、こりゃ何だ! 

3,4ミリ厚のキャビアの下には白いカニの身がぎっしり。そのカニ身とキャビアを混ぜこぜしながら食すと、とっても幸せな気分になってきました。Fine Gelee de Corail、珊瑚の細かいジュレって全く理解できなかったんですが、カニ身を珊瑚に見立てたのでしょうか。この構成が「二枚貝としてのカニ」なのかも、ね。(あまりのうまさにカニ身の写真を撮るのを忘れました、ご免)

選んだ白ワインのムルソーがこのお皿に実にぴったり。トマトの時には感じなかった甘い複雑なアフターも現れ、一方の食材の味わいも深くなってマル!。まさにマリアージュ。これを書いているだけで、ナッツの香りと蜂蜜の味わいの記憶が蘇ってきますわ、ホンマ。至福のお皿となりました。ソムリエが強く薦めたのも宜なるかな、ですね。

ソムリエに、「これは見事、良いワインだ」と云うと、茶目っ気たっぷりに「あなたの選択だ」とこちらを持ち上げてくる。最終判断はこちらでも、「いや、あなたの薦めたものだ。ありがとう」と、こちらが返すと満更でもなさそう。こういうやり取りも素敵なディナーを盛り上げます。意思疎通って大事ですもんね。

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3つめはランゴスティーヌ。手長エビですね。今度は3種仕立て。

3rdPre

La Langoustine
Preparee en Ravioli,
Service dans un Bouillon a I’Hule d’Olive au parfum Poivre et Menthe ,
Glacee au Soja, Avocat, Nem de Langoustine frit,
jus de Romaine et Cacahuetes torrefiees

ラビオリというのは、右側の泡々がかかっているお皿のこと。ランゴスティーヌの身を中味にしたラビオリでした。ラビオリの中のスープが小籠包のようで、なかなか美味だったのは覚えていますが、泡が胡椒とミントのオリーブオイルブイヨンだったかどうかは記憶がはっきりしません(苦笑)。

左下はランゴスティーヌのフリット(揚げ物)。ソースとしてレタスのグリーンソースとナンプラーが効いたソースがつけられています。これは軽く食べられ、とくにグリーンソースはほのかな苦みとともに面白かった。

lango33つめはランゴスティーヌを焼いたもの。アボカドが乗せられ、大豆ソースが醤油やオイスターソース風な感じの味わいを醸し出し、何より彩りがキレイで柔らかい。軽く仕上げられていたので数口でペロリ。

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4番目のお皿はお肉の料理。ウズラです。
uzuraLa Caille
Rotie Truffe at Miel,
Asperges vertes et Pennes au Jus

トリュフと蜂蜜で味付けし焼いたウズラにアスパラガスとペンネが添えられています。酔いが回っていたのか、最初は気づきませんでしたが、良く見るとウズラはウズラのカタチに配置されていますね~。上から頭の部分、真ん中が胸肉、一番下は腿肉なんでしょう、きっと。

お皿の上に絵を描くようにレイアウトするのは良くあることですが、大皿に大胆に乗せるのは美的センスがないとできません。真ん中の線は地面をあらわしているんでしょうか。それとも何か聖書のような世界の再現なのか。どちらにしても見事です。

味は落ち着いた良い味。さらに嬉しいのは量が少なめなので最後まで堪能しながら辿り着けました。白ワインも、ソムリエがいうようにウズラでも使えて良かった。感謝。

cheeseその後チーズを数種類いただき、最後はデザート。おなかいっぱいだったのでデザートは最後の詰め込みのようになってしまい残念でした。一言許してもらえるなら、プレ・カトランのデザート、悪くないんだけど、ヌガーは固すぎでもうひとつ。飴細工も面白いんだけど、それだけでは味の感動には繋がりません。美味しい食事の後に登場するデザートはどういうものが良いのか、もっと考えて欲しいものだと思いますね(贅沢な期待かなぁ)。

でも、ディナーは最後の最後まで楽しめました。

desPre

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今回のプレ・カトラン、好き勝手なコメントつけましたが、お料理の美味しさはもちろん、レストランで食することの愉しさというか、醍醐味を経験することができました。というか、なぜこんなに心地よく食事ができるんだろうと考えていたら、フロアのサービスの質というか内容に新たな発見というか、改めて見えてくるところがあり、食することの背後にあるレストランの演出のことに思いが至ったのです。

よくよく考えてみると、キッチンが美味しい料理を作り、フロアが私たちに美味しく食べるための舞台演出をしっかり行ってくれるからこそ、私たちは気分よく食事することができるわけ。ただ単に料理がいい悪いだけの話では終わらない(料理が良いのはある程度になれば当然)。

レストラン業界、とくに日本のそれでは調理場の方に重きが置かれ、フロアサービスの大切さが軽視されがちなのではないでしょうか。もっとフロアサービスに人材と資金を投入すべきだと私たち夫婦は日頃から思っていますが、プレ・カトランで食事をしていて、改めてそのことを再確認した次第です。

ギャルソンたちはただ単に注文をとってお皿を出したり引いたりするだけではありません。客の希望や期待をいかに実現するか、どうしたら喜んでもらえるのか、考えに考えて動いています。私たちに対応してくれたフィリップさんとミッシェルさん、お二人とも一見軽くお茶目にやっているかに見えるのですが、それはまぁ客を寛がせるため。その裏で客の進行具合をきちんと把握し、食の進み具合、反応や評価を1つ1つ確認しながら、おまけにテーブルの明るさまでフォローし、晴れの舞台進行を努めています。そんな配慮をおくびにも出さず、愉しい会話で食事を持ち上げてくれるののは、なかなかできるものじゃない。

prePreたとえば、こちらがワインを少々こぼしてしまった時の対応といったら、実に素早く、そして適切でした。回りのお客さんにはそんなことがあったことすらわからない位でしたから、客に後ろめたい気持ちを抱かせることも少なくなるはずです。そういうのも、経験の蓄積だけでなく、とっさの判断力、洞察力がないと務まりません。彼らは完璧にプロでした。凄いもんだ。

ソムリエもそうです。お酒の注文をきいてグラスに注ぐだけが仕事じゃない。客の体調やふところ状況を掴み、その中で食事内容と合うお酒を選び出し、一番美味しい飲み方ができるように場を盛り上げていく。お客がどうしたら満足できるのか、常に気配りや目配りに余念なし。お客を満足させるサービスの究極をこなしています。

そんなの簡単だと云うなかれ。プレ・カトランのようなフロア陣はなかなかいませんよ。今回のフランス旅行でも、ここと同じレベルを提供してくれたのはランブロワジーだけ。後はまだまだ…。

思うに、プレ・カトランは私が体験した世界最高のレストランの1つでした。こちらが求めれば、それに応じて新しい世界が開け、打てば響くような体験ができることがわかったのは大収穫。ありがとうございます。