いい絵

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はっとすることがあったり、心が和み落ち着くことがあったり、絵をみるといろいろな体験や感動を味わえます。ところが、普通はそうではないらしい。たとえば知識や教養を増やすためだとするのは知識偏重な教育の弊害だし、お金に換算してその価値を決めるなんてのはどう考えても最悪。でも、それが染みついてしまったのが現代社会、といえば言い過ぎしょうか。

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伊野孝行 南伸坊『いい絵だな』(集英社 2022)

著名な画家の美術展が開催されると、いつも入場を待つ長蛇の列に館内の密集状態。そんなに関心のある人が多いのかと訝しがることしきり。絵画やアートにホンマに興味があるのか、知識を得るために絵を観ているのか。だいいち絵を観る人たちの顔付きがもう1つ楽しんでいるように私には見えません。不思議です。

絵の見方は人それぞれ。そういうのも何ですが、画家の主張や手法が異なる絵をたくさん並べられて面白いのかどうか、中世の宗教絵画や意味不明な現代アートを前にして教養のためには時間を費やすことこそ大切だとでも考える人が多いのか。

こちら、興味を覚えたり琴線に触れないと素通りするので普通の人より早く鑑賞時間が終わってしまがち。だって、各人好き嫌いはあるだろうし、学者が見るような見方では堅苦しいし、無理矢理何かの理屈をつけて理解しようとするのも窮屈です。

ならば、もっと自由に絵を楽しんだらいいのにね~。難しいことはありません。要は、自分が素直に楽しめるかどうかを基準にすればいいだけ。

・・・日頃そんなことを考えていると、「我が意を得たり」な本が登場しました。著者は伊野孝行さんと南伸坊さん。本の題名は『いい絵だな』(集英社)です。

本の中で取り上げるのは写実画と写真、印象派からシュールレアリズム、ヘタうまとアール・ブリュット、異様な価格の現代アート等々・。絵をめぐる話題は尽きませんが、それでもこの本で一貫しているのは自らが楽しむという視点です。そこに少しばかりの知識があれば絵画の楽しみは一気に増していくことでしょう。

本を読み進めながら改めていろんなことを整理することができました。そういった機会を得たのは幸甚。読後の印象は、「いい絵だな は いい本だな」です。