四千万人を殺したインフルエンザ

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四千万人を殺したインフルエンザ―スペイン風邪の正体を追って今回の豚インフルエンザ。H1N1・・・、何か記憶に引っかかるなぁと本棚をゴソゴソ。そして、この本を発見。98年の鳥インフルエンザの後出版されたものですが、1918年のスペインかぜの原因ウイルスを追跡した内容です。その型がH1N1。そう、今回のと同じタンパク質特性です。(2007年に文春文庫から文庫でも出ています

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この本は私にとって想い出あり。ミルウォーキーで起きたクリプトスポリジウムの追っかけ、その後シドニーでの事件をフォローしていて、感染症といえばHIV感染やインフルエンザ感染だということで、その方面の文献や書籍を読んでいた10年前に見つけたものの1つ。今読み直すと、実によく整理されていて面白い。

1997年に香港で鳥インフルエンザが発生。致死性で、はじめてのH5型。幸い翌98年夏頃にはほぼ終息。関係者はこのフルー感染事件をその後の世界的流行の前兆と考えていましたが、その予想は今回ので見事に当たりを証明してしまいました。

インフルエンザウイルスといっても多数あり、ウイルス表面にある2種類のタンパク質(酵素)で分類されています。それがヘマグルチニン(H)とノイラミニダーゼ(N)。1998年香港で発生した鳥フルーはH5N1、1918年のスペインかぜはH1N1、そして今回のメキシコも同じ。ちなみに、タミフルやリレンザは後者ノイラミニダーゼの阻害剤です。

人類は科学の進歩により、このタンパク質の種類と関係遺伝子を明らかにし、フルー発生の時の対処やワクチン製造に道を開いてきました。でも、フルーがウイルス原因だとわかったのは1933年。じゃ、1918年のウイルス、つまり90年前に蔓延したフルーの原因ウイルスをどうやって入手したのか? その追跡がこの本のメインで実録。

簡単にいえば、永久凍土の中に埋葬された当時の死者の遺体を探し出して、そこからウイルスを取りだそうというわけですが、その探索をめぐって関係者の名誉や利権が絡み合い、複雑な人間ドラマとなっています。結果は本を参照していただくとして、お金をかけた大調査と、そうでないものと違い、それも方法とアイデア、そしてその背後にある人間関係など、興味深い話となっています。

また、「眠り病」(嗜眠性脳炎)が1918年の余波だと考える向きがあること(「レナードの朝」のあの病気のことですよ)。その直後に起きた大恐慌のため、世界中で4000万人の命を奪ったとされるスペインかぜの記憶が曖昧になってしまっていることの指摘なども、考えさせられました。

最後に。今回のフルー、騒ぎすぎ。出番が回ってきた正義の味方のように振る舞う舛添某や検疫対応を見ていると、フルー対策というより新「治安維持法」の準備展開あるいは予行演習かと思ってしまいます。

穿ちすぎ? いいえ。最初新型フルーによる死者が100数十人とか云っておいて、その後10数人に変更したのは何故? 当初からマトモそうな専門家がフルー以外の死者と混同するなと指摘していましたが、そういう話をさておいて危機を煽っていたのは誰? また、米国の失業率の増加とメキシコ移民抵抗との関係はあるのかないのか。 ブツブツブツ・・・・。