垂直を味わう

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垂直とは一般に二直線あるいは二平面のなす角度が九十度であることを指します。ワインの場合では、同じ銘柄の年度違いを垂直と称して飲み比べることを指します。今回はそちらの垂直について。

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ワイン飲みにとっては、ミレジム(ビンテージ)や作り手の情報は欠かせません。でも、これがあまり当てにならない(笑)。当たり年なのに何かおかしい、ホンマにこの作り手のワインなのかと惑うようなモノに遭うことも多々。要するに、情報を集めても当たり外れが避けられません。

売らんかなのセルサイドは巧みな宣伝文句で迫ってきます。たとえば、美味しいワインだと云わず「通好み」という時は、「それほど美味しいわけではないがあなたが通なら何らかの理由をつけて楽しむことができる」という意味のこと。ワイン商ってまるで詐欺師みたいですね。

そんな状況の中で自分の嗅覚や味覚を鍛えるには、とりあえず世間の下馬評を横に置き自分自身で納得のいく経験を蓄積していくしかありません。

そんな方法の1つが同じ作り手の年度違いを同時に飲んでみること。それが垂直飲み比べ。先日友人夫妻とリストランテ・デ・カッチャトーリ(京都)で会食する時、拙宅セラーにあったマルゴーの2004年と2005年を飲み比べてみました。

エチケットが年毎に違うのが面白い。

シャトー・マルゴーはボルドーのグランヴァンの1つ。『失楽園』(渡辺淳一)に登場するので名前をご存じの方も多いことでしょう。また、マルゴーはヘミングウエイのお気に入りだったので彼は娘の名をマーゴ(マルゴ)としています(マーゴさんは映画「リップスティック」に登場)。こういう蘊蓄は味わいの薬味ですな。

教科書的にいえば、2004年は先ほど触れた通りの通好みの年、一方の2005年はデキの良い年。ボルドーは2000年、2005年と2009年が良年ですが、実際飲んでみるまでわかりません。

結果から云えば、05年はボルドーらしい雰囲気の美味しさ。カベルネの香りをしっかり漂わせ、飲み口柔らかく、余韻も比較的長く、グランヴァンの特長を一通り持った実にバランスの良いワインでした。このクラスは何度も云っているように、飲み物のカタチをしたアート作品というべきものでしょう(好みをいえばラフィットやラトゥールの方が私は好き)。

一方の04年は05年に比べると味わいが粗く固い。最初は熟成が足りないのかと思いましたが、タンニンが既に丸くなっているので今後それほど伸びることはなさそうです。誤解のないように云っておくと、04年だって十分に美味しいワインですが、05年と飲み比べるとアラが見えてしまいます(哀)。

ところがこの04年。鹿肉料理と合わせると俄然輝くのですから面白い。マリアージュとはよく云ったものです。05年は何と合わせるまでもなく美味しいワインですが、料理と合わせるなら04年かもしれません。

鹿肉料理と合わせると04年は素晴らしかった(2018年11月10日 @リストランテ・デ・カッチャトーリ)

それにしても、同じシャトーでも1年違いでこれほど違うとは!(驚き)。ワインの味わいを収穫年(ビンテージ)を無視してあれこれ云うのは意味がないことが再確認できた晩でした。

ついでながらひと言。ボルドーの2005年グランヴァンは現在どれもメチャ高で、私が買った時の三倍〜五倍以上。(他にも美味しいボルドーはいろいろですが)どうしてもグランヴァンを飲みたい人は樽詰め段階のプリムールで安価に買って10数年待つのがベター。気の長い話かもしれませんが、それが一番。

さて、垂直の反対は水平。同銘柄の年違いが垂直なら水平は同じ年の畑違いを楽しむこと。近所の畑とくに隣の畑を選べば作り手の違いが際立ちます。拙宅のセラーをざっと覗くと、ヴォーヌのプチモンとかレ・ボーモンあるいはマルコンソールとかいろいろ。飲み頃になるのが今から楽しみです。