Santo Sospir別荘  ニース その5

.Travel & Taste

50_coct 9今回の旅で是非行きたかった処が二つ。そのうちの1つがコクトーが居候していたサント・ソスピール別荘です。ニースの東、車で30分程度のSt. Jean Cap Ferrat(サン・ジャン・カップ・フェラ)という半島の突端にあります。

朝10時の見学アポを取っていたので、少し時間の余裕があり、まずEzeを見学してから向かいました。それから半島中部にあるロスチャイルド邸を訪ね、隣町のVillefranche(ヴィルフランシュ)でランチをとった後、その町のサン・ピエール礼拝堂へ。内部の壁画をコクトーが描いたという場所です。ということで、この日はコクトーにどっぷり。



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数年前このサント・ソスピール別荘に触れた雑誌記事を読んだことがあり、へぇ〜そんな家があるんだなぁと思っていたら、先月だったか、雑誌のRichesse No.4(2013 Summer issue)に見学ができると書かれているのを発見。ダメモトでお願いしたら、9月8日10時の見学アポがとれました。ラッキー。

問題はどうやって辿り着くのか。列車やバスはありません。タクシーはもう1つ使いにくいし、第一くだんの別荘を知っている運転手がどれだけいるのでしょうか(行ってみればわかりますが、小さな木戸のような入り口なので、行ったことのある者でも見過ごしてしまうでしょう)。

52_eze 2あれこれ思案したあげく、ツアー会社の車をチャーターすることにしました。お願いしたのは前日お願いしたマイ コートダジュール ツアーズ。というか、この日をまず頼んだ後、列車の全休でアンティーブからの行程を追加でお願いした次第。

さて、アポは10時だし、どうせ車で行くなら、ついでにEzeも・・・ということで、鷲の巣村として有名な町、Eze(エズ)にまず向かいました。朝一番だったので村には観光客がほとんどおらず、まるで貸し切り状態で楽しめました。

51_eze 1少し離れて町を眺めると、ホンマ、山の上に設けられたワシの巣のようです。鷲の巣の由来はこちらをご参照下さい。後日、海岸側を走る列車から見ようとしましたが町は全く見えません。海から進入する敵から見えないようにしたというのはまさにその通りでした。


前座なEzeの次は、今日のメインのサント・ソスピール別荘です。別荘の持ち主は故マダム・ヴェズヴェレール。彼女の別荘にコクトーが居候するのは60歳ですから、既に詩人、作家、映画監督としての名声を得た後のこと。

ムッシュー・コクトー―ママとコクトーと私そのコクトーがどういう経緯でゲイの相手だった男性と共に別荘に住みつき、マダムやマダムの家族、とくに娘のキャロルさんとどう暮らしていたのか。興味のある人はキャロルさんの本をご覧下さい。コクトーとシャネルやジャン・マレーとの関係など、当時の社交界やアート関係者との交友など面白い話が満載です。

・キャロル・ヴェズヴェレール『ムッシュー・コクトー ママとコクトーと私』(東京創元社 1997)


この別荘が有名なのはただ単にコクトーが住んでいたから、ということでありません。コクトーは白色だった家の壁に「入れ墨を入れさせてはくれないか」とマダムに了承をとり、家中をコクトー絵画にしてしまったのです。それが貴重で素晴らしい。

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53_coct 0玄関には人間のハーモニーを象徴するような絵柄模様を施し(というか、バイセクシャルを表現したという話もあり)、内部の居間や寝室、階段などなどの部屋にはそれぞれ何かしらのテーマ性をもった絵が描かれています。


54_coct 3別荘のある地域の漁師さんの仕事をイメージした絵やウニなどもあります。また、ピカソとの交流を表すかのように「ピカソのパン」も描かれていました。総じて、別荘全体がまるでコクトー美術館なのですが、実物を間近に見ると、家とそのまま一体化していて、凄く印象的でした。


56_coct 8コクトーはもともと画家ではありませんから、絵の評価についてピカソの目を非常に気にしていたらしい。で、ピカソの評価はどうだったか。どうやら合格点という結果だったみたい。そのことは先のキャロルさんの本で知りました。右の写真、ウニの他に、右側にあるMのようなカタチの不思議なものがいわゆる「ピカソのパン」。ネットで検索すると意味がわかります。


55_coct 7現在、この別荘を管理しているのはエリックさん(写真正面の眼鏡の男性)。マダムの最期を看取った介護人です。別荘のHPから見学予約をお願いすると対応してくれるのも彼。聞くところによれば、最近別荘の雨漏りが進んできて改修をどうするのか、あるいは閉鎖してしまうのか考えどころだとのことだったので、見学をしたい人は早めに出向くのがベターでしょう。


roshcld 2サント・ソスピール別荘の次は、Villa Ephrussi de Rothschildという、イタリアルネッサンス様式のロスチャイルド邸宅と庭園へ。さきほどの別荘が質素に設えてあるのに反し、こちらは贅を尽くしています。王宮を模したような作りがフェイクっぽく、お金はあれど王ではないロスチャイルド家の野望や羨望を垣間見るようで、哀しくなってしまいました。マダム・ヴェズヴェレールもロスチャイルド系ですが、お金の使い方には大きな差があるみたい。


57_miniBBその後、隣町のVillefranche(ヴィルフランシュ)へ。現地の人のお薦めで、この町一番のレストラン、La Mere Germaineへ。海岸べりのテラス席をもらい、ミニブイヤベースでランチ。なぜミニかというと、普通のは2人分注文する必要があること、それではあまりに量が多いとの話を前もって仕入れていたから。スープはエビやカニの出汁が効いていてなかなか美味。流石のお味で、合わせたCassis(カシー)のワインがぴったり。値段がもちょっと安ければ尚良しというところでしょうか。


59_StPところで、Villefrancheはこの辺りで一番深い湾ということで、小型クルーザーだけでなく大型客船まで停泊しています。それらの客がランチやディナーで陸に上がるみたい。このレストランの専用ボートも停泊中の客船からお客さんを続々引っ張ってきて、いつのまにか店内いっぱいになってしまいました。さすが、やることが海辺の有名レストランで逞しい。

ランチの後プチトランで町を散策してから、サン・ピエール礼拝堂へ。小さな教会の礼拝堂ですが、中の壁画はコクトーが描いています。ここではコクトーらしさというか、軽快な輪郭と形状、それにキャロルさん(マダムの娘)のお顔を描いたものなどが楽しめます。でも、サント・ソスピール別荘を見た後ではあっさりシンプルな感じがしないではありません。ここは時々クローズになっているとのことですが、私たちは幸運だったみたい。

ということで、次はマチスの最高傑作を見にVenceへ。(続く)。