NDは秘密のサイン?

.opinion 3.11

牛肉の放射性物質汚染が喧しい。昨日、京都新京極を歩いていたら老舗・三嶋亭の前に人だかり。なんとまぁ、牛肉を買う人が行列を作っていたのです。立て看板には「放射能を測っています。安全な肉を扱っています」的な文句がありましたから、安全なものを求めての行列かと思いきや、どうやら事情は複雑です。

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よくよく見ると、牛肉の値段が安い!ふだんの三嶋亭の値段の半分以下かも?! なんだこれ?!

いつもは高級肉屋で知られる三嶋亭。放射性物質を分析して安全性を売りにしているのかと思いきや、感謝セールとか何とかで、牛肉の値段が安く設定されていました。それもふだんの半分以下?! だから、大勢が行列を作っていたらしい。

三嶋亭の信用と質の高さに加え、放射能検査つきで、おまけに買いやすい値段とくれば、まぁわからないこともなし。でも、そこまでしないと牛肉が売れないのかと、ちょっと考え込んでしまいます。

ところで、今回問題にするのはND。野菜でも肉でも分析結果にNDというのが載っているのをご覧になった方は多いはず。あのNDです。

一般にNDとはNot Detected の略。NDつまり「不検出」と説明されて、ゼロに近い、安全だと安心してはいけません。分析用語でいうところの「検出限界以下」というのが本来の意味です。

検出限界というのは何かというと、分析機器で測れる限界の値ということであって、それ以下は測れないので、限界値以下の詳しい値はわからないという意味です。厄介なことに、分析機関や分析機器が違えば、この検出限界の値は異なります。つまり、NDといっても10ベクレル未満なのか、50ベクレル未満なのか、分析機器によって異なるわけです。

したがって、まっとうな分析機関は欄外等に検出限界値を明記するのが普通なのですが、東電福一原発事故に関して、野菜や肉の分析値できちんと「検出限界値」を出している例はなかなかお目にかかれません。

実例を示しましょう。私が入手したお肉の分析成績書2つです。最初はまっとうな分析機関の一例です。

(クリックすればすこし大きな画像が出てきます)

この検査機関の測定器の検出限界はセシウムで6ベクレル/kg以下、ヨウ素131で20ベクレル/kg以下と明示されています。この測定器で測定した結果が「検出せず」(ND)と記載されています。このことから、この牛肉はセシウム137があったとしても6ベクレル/kg未満と考えられます。

一方、2つ目をご覧下さい。検査結果は「不検出」(ND)となっていますが、検出限界値を示していません。これでは、いったいどんな値なのか、わかりようがありません。もし、分析機器の検出限界が100ベクレルだったら(そんなことは稀でしょうけど)、90ナンボの値かもしれないじゃないですか。それどころか、政府の暫定指標値である500ベクレル/kg(肉)に達していなければ、「安全」なんだから「ND」と記載するような業者さえあるかもしれません(検出限界を500程度にセットすれば合法的だから)。

(クリックすればすこし大きな画像が出てきます)

そんなこと気にしなくてもいいって? いいえ、この点は大切です。たとえば、ニューフクシマなんてサイトにはNDがズラ〜〜〜と並んでいますが、なぜかその「検出限界値」は説明されていません。いくらNDといっても、「検出限界値」の明示がない限り、本当の値はわかりません。

「検出限界値」を明らかにせずに「ND」と記載するような業者が、正直に分析値を記載する業者よりも得をするようではおかしい。正直な生産者がきちんと評価されない仕組みは、やはり問題ですし、変です。まっとうな農家の言い分も読んでみて下さい。

私の言い分は以下の通り。

1)NDと表示する時には「検出限界値」を明示してほしい。
2)「検出限界値」の明示がないND値は値がいくら以下なのか不明。したがって信用度は極めて低い。
3)NDの検出限界値を出さないのに安全だ安心だという食べ物には要注意(だって、本当に分析したのなら検出限界値もいっしょに出すべきです。出せないとしたら何か不都合な理由があるとしか考えられない)

また、国の暫定指標値そのものが非常時に定める暫定的なもので恒常的な安全性を担保するものでないことも心にとめておきましょう。

東電原発事故で汚染された地域の第一産業に携わる人たちは、国の指標値以下なら出荷できると考えているのかもしれませんが、話は逆です。

あれは暫定指標値以下の農産物・水産物には補償しませんという意味でしかないのです。つまり、生産者を守っているのではなく、補償金を出し惜しみしているだけ。放射性物質で汚染されたのですから、怒りの矛先は東電や国のはずなのに、「風評被害」などというダマシの用語を使って消費者との対立を煽る報道は愚かです。

一方、消費者は国の定める暫定指標値が安全値ではないことを理解した上、放射性物質による汚染が疑われる場合にはデータの提示を求めていきましょう。よりよい食べ物を求めるには、データの明示のあるものの中から選択をしていくしか方法がありません。本来顔の見える関係で農産物水産物を食することができれば、それが理想ですが、なかなかそうはいきません。でも、まっとうな生産者がきちんと評価されるように消費者も対応していくことが求められています。