2010年

.EcoStyle

来月某所で講演を依頼されているので、その原稿を考えていたら、2000年の初めにある業界新聞に掲載した拙文が出てきました。当時ここで紹介するはずだったのを失念していたことも思い出しましたので、遅ればせながらアップしておきます。拙宅設計にも関わることですが、2010年のエネルギーに関する予測というか、個人的な期待というか、まぁそんなところです。…

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夢 2010

 2010年元旦、朝7時起床。今年の正月はえらく天気がいい。窓の外を眺めると、家々の太陽光発電パネルが朝日に輝き眩しいくらいだ。10年前には太陽光発電の採用にはかなり費用がかかっていたが、それがどうだ。技術開発が進み、効率が飛躍的にアップするとともに価格も大幅に低下。今では発電能力1kW当たり10万円を切っており、標準的な家庭では30万円前後で十分に使用電力が賄える。ちょっと大型のテレビや冷蔵庫を買うような気楽さで設置できるようになった結果、どの家の屋根の上にも発電パネルが載るようになったというわけだ。システム自体は既に1990年代から採用されてきたものと原理的に同じだが、価格低下と普及の著しい進展には12年前に太陽光発電を採用した者として隔世の感を感じてしまう。

 太陽光発電だけではない。風が利用できる地域では風力発電が当たり前のシステムになってきたし、燃料電池も多くの家庭で採用され始めてきた。燃料電池とは水の電気分解の逆反応を行うことで電気を作るとともに、その廃熱で給湯を行うというシステムだ。

現在のエネルギー源はガス会社の供給する天然ガスで、家庭用燃料電池が出たのは約5年前。値段がこなれてきたのはつい最近のことだが、まだまだ改良の余地は残されている。環境に与える負荷の大小によって環境税が課せられる現在、地球温暖化に繋がる石油・石炭のような化石燃料や長期間の廃棄物管理を要する核燃料エネルギーに対する社会の風当たりはきつい。個々人のエネルギー使用に対しても自然環境の保護保全に関する規制が厳しくなったのが、ここ10年の特長だろうか。

 最近では昼間は太陽光発電で水素を作り出し、それを夜間に燃料電池で使うというシステムの試作品が出回りはじめており、天然ガスのような燃料を使わなくてもよい夢のようなシステムが登場するのも時間の問題となってきた。10年前はオゾン層破壊とか地球温暖化現象なんて言葉が飛び交っていたが、そういった問題に対する科学技術の進歩も捨てたもんじゃない。

 燃料電池といえば、車の方が全く様変わりした。2002年にダイムラー・クライスラーが燃料電池で動くトラックやバスの販売を開始。トヨタほか日本の自動車メーカーもすぐに同様の車を発表し、その後は燃料電池車一色である。最近ではガソリンエンジン車や重油ディーゼル車なんかは探してもなかなか見つからない。もし入手できたとしても、燃料コストや環境税で簡単には走らせられないだろう。

 石油などの化石燃料を使った商用発電システムも未だ残っている。しかし、資源の枯渇を考慮し購入単価が高めに設定されたり、車同様、環境税が導入されたため、自然エネルギーの採用や環境負荷の少ないエネルギー源への移行が加速度的に進み出したことも事実。核廃棄物や環境汚染型の火力・原子力発電所に頼っていた20世紀末がウソのようである。

 事業所や工場の多くでも既に小規模分散型のマイクロ発電プラス熱回収システムが主流になっており、巨大集中型の電力供給システムは既に時代遅れとなった。

 そういえば、健康増進のため私が通っているスイミングプールでも数年前からガスタービン発電を採用した。この発電システムはマイクロ発電と呼ばれるもののひとつだが、電気を作り出すだけでなく発電時の廃熱を利用した給湯を行っているとのこと。商用電力はバックアップのみの採用となっている。数年前から商用電力料金が高騰したため自前のエネルギーシステムを採用した方が安上がりになったというのが導入の主たる理由である。

だが、プール事業も環境問題には無関心ではいられない。文字通り湯水のように水やエネルギーを消費するようなサービス産業は世間の風当たりがきつい。プール産業も例外ではない。顧客の関心が設備やサービス内容はもちろん、環境問題への対応度という企業の社会的責任を厳しくチェックするようになってきた。早くから環境負荷の小さい新エネルギー方式を採用していたプールには客が増えてきたようだが、後発組未採用組はどんどん客に逃げられているようだ。

 ・・・という時代が本当に来ると思うのは私だけだろうか。

(体力健康新聞 2000年1月号所収)

本人追記:拙宅はソーラー発電で水素を作り出し、それを原料に燃料電池を動かし、電気エネルギーと温水を作り出すという仕組みを念頭において考えました。家を建てたのが1999年末だったので、現実問題としてそこまでの設備仕様にはなっておりません。そのことを体力健康新聞の主幹である長掛氏に話していたら、それ書いて下さいとのことだったので、2000年の最初の初夢記事のようなものに混ぜてもらった次第です。

後半にスイミングプールの話が出てくるのは、掲載紙がその方面のオピニオンリーダー的な存在であることを配慮した上でのことです。

さて、あれから4年半。「2002年にダイムラー・クライスラーが燃料電池で動くトラックやバスの販売を開始。トヨタほか日本の自動車メーカーもすぐに同様の車を発表」とした予想はほぼ当たりましたが、これは既に日程にあがっていたのを書いただけだから当たり前といえば当たり前。でも、「その後は燃料電池車一色である」という状況はまだ生まれていません。また、家庭用の燃料電池はまだ庶民の手元に登場していません。上記の記載は2010年にはまだかもしれませんね。