コロラトゥーラ

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長年の疑問がまた1つ解消。それはコロラトゥーラという歌唱方法の名前です。以前映画で超高音域の歌唱を観て、ありゃ何だと印象に残っていたのですが、当時は関心が続かず疑問を放置。ところが最近、ある歌手を知って、その音域をコロラトゥーラ・ソプラノというのを知り、いそいそと大阪へ。そして大感激の一夜でした。

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コロラトゥーラ(イタリア語: coloratura)は、クラシック音楽の歌曲やオペラにおいて、速いフレーズの中に装飾を施し、華やかにしている音節のことですが、現在は超高音域のソプラノのことをコロラトゥーラ(コロラトゥーラ・ソプラノ)というようです。

最初にこの歌唱方法に驚いたのは、ブルース・ウィリス主演の映画「フィフス・エレメント」(1997)のあるシーン。タコ星人かイカ星人のような歌手が歌うシーンで、突然超高音域の歌唱に切り替わるところがあります(下記ムービーの3:18付近)。いったいどこから声が出ているのかと思わせるような発声方法にびっくりしました。



ありゃ何だ、と当時思ったのですが、とっかかりが無く疑問はそのまま。実際にそういう歌い方ができる人がいるのを知ったのはつい最近。それが田中彩子さん。

もともとはピアニストを目指していたけれど、手が小さ過ぎるために諦めたのが17歳の時。その時、ピアノ教師の紹介で訪れた声楽家が、彼女の声が超高音域の鍵盤端まで出ることを知り「君の声はコロラトゥーラ・ソプラノ。世界的にも珍しい」。その言葉に救われ、早速その声楽家のレッスンを開始し、高校卒業後は勢いよく日本を飛び出しウィーンへ・・・と前向きな人生が面白いのですが、詳しくはネットでググってみて下さい

田中彩子さんのアルバムはすべてApple Musicで聴くことができます。

ウィーン在住の田中さんですが、ちょうど6月2日大阪京橋のいずみホールでリサイタルがあるのを知り、いそいそと出かけました。20数年ぶりの京橋界隈に戸惑いつつ会場へ。リサイタルのタイトルは「コロラトゥーラ ジャーニー」。いろんな歌を超音域のコロラトゥーラで彩る2時間に圧倒され、素晴らしい一夜になりました。

歌もさることながら、興味深かったのは彼女の日本語。日本語が少したどたどしいのでピアニストの山中さんが翻訳(意訳)するという余興つき。18歳でウィーンへ行き、そこで歌唱を学び、かの地で高い評価を受け、現在もウィーン在住・・・という経緯もあるのでしょうが、彼女の論理や思考方法が既にドイツ語になってしまったため日本語が使い辛くなってしまったのではないでしょうか。

海外留学が珍しくなくなった現在でも、ここまで言葉が変化する人はどれだけいるでしょうか。音楽にしろ絵画彫刻にしろ、アート全般、いや料理でもその成否は言語構造に影響されるのではないかと考えている当方からすれば、その現実をまざまざと見せつけられた感じ。会場が暖かな笑いで包まれる中、考えさせられること多々でした。


フラットでグローバルな世界になっても、やはり学びの基本はユニークでローカル。顔見て膝つき合わせてこそ伝わるものがあるし、そんなところでしか学び得ないものもある。だからこそ、感性を大事にする音楽は音楽の本場で、料理は料理の本場で学ぶというのは根本的なところで大切なことではないか。田中さんのコロラトゥーラを聞きながらそんなことを考えた次第です。