エコ住宅づくり奮闘記

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こんな家ができました  有田 一彦
『週刊金曜日』2000年2月4日(No. 301)号

 昨年一○月やっと筆者宅の新築工事が完了した。本誌251号(一九九九年一月二二日)で紹介した通り、太陽エネルギーの活用、脱塩ビ水道設備や雨水利用に挑戦し、有害建材を可能な限り排除し、地球環境にも負担の少ない家づくりを目指す、そんなテンコ盛り仕様だったが、工事業者の熱意にも支えられ、期待以上の出来上がりとなった。いったいどんな家ができたのか、早速これから案内しよう。

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 外観は和風である。倉か納屋風と言った方がぴったりかもしれない。和風といっても屋根は瓦ではなく金属だし、その上にはソーラー発電パネル、地上にはソーラー温水器。道路側から見ると斜め向きに建っており、玄関がどこだがわからない。何か変だなぁと道歩く人たちが立ち止まって見つめる家、それが筆者と連れ合いが知恵を絞った家である。

光よ、風よ

 家が道路と平行になっていないのには訳がある。日射を最大限に活用するには家は南向きにするのが鉄則だし、効率的な太陽光発電のためには南側に大きな屋根面積がほしい。そこで、パソコン上に3次元の家モデルを作成し、敷地の緯度・経度を設定して日射と影のシミュレーションを行なった。その結果がこれだ。
 南面の窓を大きくとったおかげで家そのものが縁側状態になり、冬でも日射が強ければ暖房いらず。太陽に「ありがとう」の毎日である。
しかし、冬の利点は夏には厄介モノになる。伝統的な日本住宅は「夏を旨とすべし」と縁側を設け庇ひさしを十分にとり、日射による室温上昇を防いできた。これには学ぶ点が多いが、冬の寒さ夏の暑さ、どちらもそこそこ考えなればならない琵琶湖のほとりではどうしたら良いのか。
 あれこれ思案したあげく、庇ひさしに加えて窓の外側に可動式のブラインドシャッターを設け、日射の排除と通風確保を両立させることにした。夏の日射を家の外側でシャットアウトし、夜間窓を開けたままで通風できるのが有り難い。
 また、場所が琵琶湖に近い丘陵地の途中にあり、風がそこそこ吹くことから、家の南北東西に窓を開け、土地の風を最大限に利用することにした。もちろん、家の内部にも通風用の欄間回転窓を設けたり、あれこれ工夫を凝らしている。光や風との上手なお付き合い、これが環境に配慮した家づくりの第一歩ではなかろうか。

サンシャイン・オン・マイハウス

光といえば、ここ数年来、自宅にソーラー発電設備を取り付ける人たちがどんどん増えてきた。喜ばしいことだ。筆者宅でも屋根上にソーラー発電パネルを設置し、電力会社と売買電契約を結んでいる。発電能力は三・六キロワットで、過去数年間の電気使用実績を参考にして、必要な屋根面積を確保した。
使用した発電パネルはジーメンス製単結晶シリコンで、ペイバック(製造エネルギーをどれくらいの期間の発電で回収できるか)が約二・四年。性能の高さもさることながら、代理店の昭和シェル石油が海外で活動する環境NGO(非政府組織)のソーラー発電に協力してきたという実績を買った。おまけに、本パネルは米国の水力発電を使って製造しており、どこぞの国のように原発電力で製造しているのではないという点もマル。発電1キロワット当り約百万円程度のコストがかかることもあり、資金回収ができないからダメだと言う意見もあるが、自分で電気を作るという爽快感は金銭には換えがたい。
 温水器の方も紹介しておこう。こちらは太陽の熱エネルギーを直接利用して水を沸かすものである。某ガス会社にいる知人曰く、みんながソーラー温水器を使うとガス会社はメシが食えなくなるとのこと。給湯熱源として優秀だという証拠である。
 製造メーカーはいろいろあるが、真空ガラスで温度効率の良い製品を採用した。地上に設置したため、少々効率が落ちるようだが、筆者宅では一○月でも水温が九○℃になったし、一二月でも日射が強ければ五○℃程度になる。七○万円弱(工事費込)で、化石エネルギーをほとんど使わずお風呂に入れるのは嬉しい限りだ。
 
雨が空から降れば・・・

自然の活用といえば雨も見逃せない。雨は「太郎の家にも花子の家にも降り注ぐ」ため、その気になれば誰にでも利用できる。設備も簡単なものから大がかりなものまでさまざまで、家の事情や予算に合わせて採用できるのが有り難い。
筆者宅の場合、二種類の方式を採用した。ひとつは雨樋に二五○リットルの小型タンクを取付け雨水を貯留し庭の水撒き等に使うというもの。この手のタンクは数社から販売されており、八万円程度(工事費別)の予算で可能である。もうひとつの方法は、雨水を一○○○リットルの地下タンクに貯え、ポンプアップして水洗トイレに活用するというもの。ゴミ等の除去槽を前置しているため、雨水だとわからないくらいにキレイである。こちらはタンク据付やポンプ・配管等の工事でお金はかかるが、飲む水と同じ水をトイレに流すという後ろめたさはなくなった。実利的には大幅な水道料金削減となった。
筆者宅では風呂桶排水も雨水タンクに入れている。なぜか。一般に水洗トイレへの利用を考えた雨水利用では、タンク水位が下がると水道水で補充するような仕組みを設け、雨が降らない時期にも対処するのが普通である。しかし、これでは雨水を使っているのか水道水を使っているのか曖昧になり、水道水量の削減にはなかなか繋がらない。そこで、雨の少ない時期でも水道水を使わずにすむように考えたわけである。風呂の残り湯はまず洗濯に使い、さらにその残り湯を雨水タンクに入れ、水洗用水に使うため、水量削減効果はさらに高くなっている。
 さて、多くの人たちが雨水利用を進めていけばどうなるか。水源環境への負担や影響を少なくすることができ、環境破壊の原因となる水源ダムの開発にも待ったをかけることができよう。先の太陽エネルギー活用もそうだが、自然の恵みをダイレクトに享受できる楽しさは言葉ではなかなか説明しにくい。強いて言えば、「自然を感じる面白さ」だろうか。

素材建材にご用心

新築病やシックハウスという言葉がマスコミに登場するご時世である。筆者宅の建築工事では、工務店のH建設とともに使用する建材をひとつひとつ検討した。評価基準は、?人体への危険性が明らかなものは使わない、 人体影響が少ないものでも自然環境への悪影響があるもの、廃棄物となった時に厄介になるようなものは可能な限り使わない、?内容成分について公表しないものは原則として使わない、?より安全だと思われる代替物があれば、そちらを選択する、|代替物がないものについては工法の見直しを含め再検討する—等といったものだ。具体的には仕様リストに示した通りである。
 まず、有害で危険な防蟻防腐剤の類は一切使用しなかった。薬剤処理の有無にかかわらず、シロアリは襲いかかってくると考える方が自然なので、薬剤処理よりもまず床下の湿気対策や通風を維持する方など「こんな家食べるのはイヤ」というような家づくりを目指すべきだ。薬剤を使わないとダメだと思い込んでいる人は、シロアリ薬剤で健康を害し、家まで手放さざるをえなかった人がいることを知っておくべきだろう。
また、筆者宅では合板や繊維板、削片板を一枚も使っていない。それら建材に含まれるホルムアルデヒドを排除するためだ。一九九八年に厚生省がWHOにならってホルムアルデヒドの室内許容濃度の指針を○・一OE/?(三○分平均値)とした。しかし、これは目や気道への刺激を考慮したもので発ガン性を不問にしている。一方、米国環境庁(EPA)は動物実験に基づいて、一生涯一万分の一の発ガンリスク濃度は○・○○八OE/?という見解を発表しており、(濃度が高い場合は単純な比例計算はできないが)先の許容濃度では一生涯に一○○○分の一以上の発ガンリスクになる。ホルムアルデヒド建材をふんだんに使った家庭では許容濃度以上の場合もあり、大変なことだ。
 このことをきちんと説明する学者が皆無に近いのは奇妙だが、この危険なホルムアルデヒド、実は多くの建材に含まれている。合板だけでなく、壁紙接着剤、断熱材の鉱物ウール、キッチンや建具ボード類、コンクリートや漆喰の添加剤、カーペット、家具、布製品、化粧品や消毒剤、薫蒸剤、そして木材の保存剤・・・、枚挙にいとまがない。壁紙接着剤やフローリング建材だけを問題にしても埒があかないのだ。筆者宅ではひとつひとつチェックして完全排除を狙ったが、全部を排除できたかどうか。
断熱材といえば、ホルムアルデヒドで成型しているグラスウールやロックウールは論外だ。発泡ウレタンや発泡ポリスチレン等の断熱材は温暖化作用が二酸化炭素の数千倍という代替フロンを使うため、 の基準からは使えない。自然素材でウール系のものもあるが、結露対策が必要だったり、カビ対策に防カビ剤を使っているのが気になる。炭化コルクを断熱材に採用したのは以上の検討からである。しかし、値段が高いのが難点だ。
塗装についてはトルエンやキシレン等有害物質を含むような従来型塗料は一切使用せず、安全性の高い自然塗料を使った。ただ、自然塗料といっても伝統的な柿渋から外国製のものまでたくさんある。そこで木片に試し塗りを行ない、相性が合うものを選んだ。
また、できるだけ接着剤を使わず合板もなしということで、筆者宅では伝統的な木造軸組構造で竹たけ小舞こまいの土壁を採用した。しかし、木材にも有害物質がいろいろ含まれており、すきま風ヒューヒューの昔の家でない限り通風換気は必須であり、設計施工には苦心した。
アスベストについても一言。既に建材には入ってない等と説明する人がいるが大間違いだ。未だにアスベスト入りの屋根があるし、結露防止と称し配管周りに巻いていたり、台所のシンク裏側に塗布されていたりする。いやはや困ったことである。
 こうやって建材をとことん調べていくと、使えない建材ばかりで頭が痛くなり、楽しい家づくりが苦痛になりかねない。良いものを使いたくても予算の関係がある。しかし、事実は知っておくべきだし、病気になってからでは遅い。大切なことは、どの建材にどんな問題があるのか、建築業者と施主との間で情報交換しつつ納得づくで選択すること(住宅建築のインフォームドコンセント)が求められているのではなかろうか。
 
「脱塩ビ」宣言

 「塩ビ、塩ビ」と喧しい昨今、筆者宅では水道本管からの引き込みにポリエチレン管、建屋内は架橋ポリエチレン管の「さや管ヘッダー工法」(本誌二二九号[一九九八年七月三一日]参照)を採用し、非塩ビ給水管工事を行った。
 塩ビ管を使わない理由は三つ。まず安全性。塩ビ管は塩化ビニルと可塑剤や安定剤でできており、発ガン性物質だけでなく環境ホルモン(内分泌攪乱化学物質)も問題になる。なぜそんなものが広く使われているかと言えば、施工性を第一に考え、有害性についてはきちんと調査もせず、私たちの健康問題を軽視してきたからだ。これではマズイ。
 2番目は赤水問題。塩ビ鋼管は鉄が腐食すると赤水の原因になる。新築住居でも管の継手部分の施工ミスで腐食し、赤水が出てくるケースがある。三つめは塩ビ管の耐久性とメンテナンス。後々を考えると管は容易に交換できる方がよい。しかし、躯体に埋め込んだ管を取り替えるのは非常に難しい。
これら問題点を解消する一例が筆者の採用した管と工法である。コスト的にもそれほど高くならないが、施工方法が塩ビ管と異なるため少し注意が必要である。
 次に電気のエコケーブル。なぜ塩ビ電線がアカンタレかと言うと、燃焼時に厄介なダイオキシン類を生成するだけではなく、難燃剤として混入されている鉛等の重金属も問題になるからである。一方、エコケーブルは塩ビの替わりにポリエチレンを使い、厄介な重金属は排除している。問題は、電線が少し固く値段が割高で、塩ビのような自己消火性がないという点だろうか。当初、スイスあたりから輸入しようと考えていたが、遅ればせながら九九年春、国内各社から販売開始されたこともあり、国産品で対応した。
壁紙にも要注意だ。塩ビ壁紙に含まれるフタル酸エステルやリン酸エステルによって深刻な室内汚染が引き起こされることが報告されているが(朝日新聞一九九四・七・六付等)、難燃仕様の非塩ビ壁紙にも同様の有害物質が含まれていることはあまり知られていない。筆者宅では防火規制のあるキッチンに難燃性壁紙を使おうと考えていたが、安全なものが見つからなかったので、タイル張りに変更し、壁紙を一切使わなかった。
正直に白状すると完全に脱塩ビに成功したわけではない。雨樋は代替品のコスト問題、排水管は代替品の不在で塩ビ製品を使わざるを得なかった。どちらも直接口に入る部分でないのが幸いだったが、廃棄物問題まで配慮した代替建材の登場を期待したいものだ。

まるで実験住宅
 
光や風のコントロールに建材選択の是非等、正解のないパズルを解くようなもどかしさがずっとつきまとった。工事が終わっても曖昧さが残ったままなので、外壁塗装や内部塗装を塗り分けて経年変化を比較できるようにしたり、屋根の上や床下をはじめ部屋内外に多数の温・湿度計を仕掛けて、室内の温度分布や湿度変動、それに輻射熱などをチェックできるようにした。その結果、引越してからの毎日が発見の連続で、家を建てる楽しさとは違った面白さを感じるこの頃である。住まい方というソフトウエアを含め、まだまだ検討課題は多そうだ。
ところで、筆者宅の建築費は本体工事の坪単価で約七八万円。このうち約半分が木材費と大工手間賃となっている。さらに雨水利用、ソーラー関連設備をはじめ外構・植裁や電灯・換気設備に別途費用がかかった。高いか安いかと言えば、決して安くはないだろう。ただ、この手の住宅建築に工業製品のような全国共通価格があるわけではない。とくに大工手間がかかる木造建築では、木材の選択、手の入れ方、あるいは地域事情によっても大きな差ができる。したがって、上記価格は参考にしか過ぎないだろう。
 実際のところ、お金の話は難しい。安全や健康をケチって変な家に住むのか、予算的にはきつくても安心できる快適な家にするのか。後者であれば、コスト削減のために延べ床面積を減らしたり、家構造を簡単にしたり、一部の工事を施主自身が担当したり等、あれこれ知恵を絞り、納得できるモノを選択せざるを得ないだろう。
 
 有害物質の話でいささか落ち込んだ気分にさせてしまったなら申し訳ない。なんだかんだ言っても家づくりは楽しいものだ。間取りを決めたり、設備仕様に凝ったり、のめり込めるものがたくさんある。本誌の読者なら、さらに一歩進めて安全かつ環境に配慮した家づくりにチャレンジしていただきたいものである。
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ありた かずひこ・水問題研究者。著書は『あぶない水道水』、『あぶないプール』(三一新書)。ホームページのアドレスはhttp://www.arita.com/
*(注)記事では写真や表を入れていますが、ここでは省略。

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