あるプール排水口事故の判決

プール事故

 昨日静岡地裁沼津支部にてプール事故に関する裁判の判決がありました。95年8月4日西伊豆町仁科小学校で遊泳中の少年がプール排水口に吸い込まれて死亡した痛ましい事件の裁判、訴えていたのは林田和行さん御夫妻、死亡した靖司君の両親です。判決を聞きに私も沼津まで出かけました。

 傍聴者が多くなると予想した裁判所は、開廷前に整理券を発行して抽選することを決めていましたが、結果的には希望者全員抽選なしで入れました。責任を問われている町や県からの傍聴者がほとんどいないのがちょっと奇妙です。
判決は、西伊豆町(学校側)は訴えた被害者の両親に対して賠償金と慰謝料を支払えというものでしたが、子ども側の過失を2割として全体の支払いから値引いています。また、通知たれ流し行政を行っただけで実質的な事故防止を採らなかった静岡県に対しては原告らの請求を却下しました。
 判例で見れば、被害者少年の過失2割というのは、プール排口事故では最も被害者寄りのものとなっています。拙著「あぶないプール」(三一新書)で指摘しているように、プール設備の不備を知っておきながら、その危険性を放置したままで子どもたちに水泳教育を行っている実情そのものが問題なのですから、被害を受けた(この場合は死亡した)子どもの過失を問うことは学校側の責任回避でしかありません。従来は死んだ被害者の方が悪いというような判決がほとんどで、いったい裁判所は何考えているのか!?って感じでしたが、こういう判決例が出れば、もうこれからはオバカな判決は出せないはず。
西伊豆町の仁科小ではこの事件が2度目であるという全国でも他に例を見ない恥ずかしいサンプル校でしたが、当初町や県はそれをひた隠し、こんな事件ははじめてだとかなんとかいう趣旨のウソ八百を並べてたてていました。原告側弁護士が私の著書を書証にして被告側のデタラメさを叩くと、それ以降は鳴りを潜めたという経緯もあります。知っていても本当を言わないのは訴訟上のテクニックかもしれませんが、学校関係者としては考えものです。ちなみに、プール排水口事故が最も多いのは私の調査では静岡県の四件で、さもありなんというところでしょうか。
普通なら裏で話をまとめてしまうとか和解で決着するというケースが多いなか、よくぞ判決までこぎつけた林田さん御家族の労苦に頭が下がります。判決は判例となって未来永劫残ります。本当によくがんばられました、御苦労さまでした。なお、被害者側に2割もの過失を認めた不十分な判決に対して控訴するかどうかの判断はもう少し時間がかかりそうですが、それは原告側の気持ち次第です。
幸いなことに、この林田靖司君の事件以降、排水口での死亡事故は報告されていません。林田夫妻をはじめ同様の事件被害者の親たちが文部省に「こんな危険を放置していたら被害はなくならない」と直談判して、担当者の重い腰を上げさせ、全国の学校プールの施設改善を進めてきたことや林田さんらの事件を精力的に報道してきた新聞やTVの影響が大きいような気がします。NHKは昨晩7時台の放送で報道していましたが、ああいう報道が事件の存在を伝えたり、裁判の結果を伝えたりして学校関係者に刺激を与えることになります。そういう意味ではマスコミの皆さんも御苦労さまと言うべきところですね。